【ぶんぶくちゃいな】新型コロナウイルス「人事」、強権発動の裏にあるものは

中国画の大家に徐悲鴻という作家がいるが、彼の著名な作品の中に「八駿図」という、八頭の馬がそれぞれに力強さをみなぎらせて駆けている様子を描いたものがある。このところ、どんよりと重い新型肺炎騒ぎに包まれている中国で、これをもじったギャグ「湖北八駿図」が流行っているという。それは、こんな感じだ。

 一問三不唐志紅,   何度問うても「分からない」唐志紅
 準備不足邱麗新,   準備不足でごめんなさいの邱麗新
 人不伝人是高福,   「人から人へは伝染しない」の高福
 物資充足王暁東,   物資はたっぷりと胸張る王暁東
 等待授権周先旺,   認可お待ちしてます周先旺
 深感内疚馬国強,   良心の呵責を感じる馬国強
 可防可控王広発,   予防も制御も心配ないの王広発
 答非所問蒋超良    訊いてもないこと答える蒋超良

ご覧のそれぞれの行の最後は人名である。この3週間あまりの間にその原動で全国に名を馳せた、湖北省の「八駿」だ。

唐志紅女史は湖北省黄岡市の衛生健康委員会の責任者。1月末に新型肺炎の爆発的感染を受けて中央政府が実態を理解するために派遣した調査委員会との面談で、現地の病院の患者収容可能人数、実際の収容人数を尋ねられ、しどろもどろで答えられなかった。見かねた部下が彼女にメモを手渡したり、代わりに回答したりしたが、結局彼女は現地の患者事情について具体的に自分の口から何も答えられず、挙句の果てに調査に同行した全国テレビ放送の中央電視台記者のインタビューで「日々変動しているんだから何人収容してるかなんて知らないわ。ベッド数なら答えられるけど」と言い放ち、非難轟々を巻き起こし、翌日同職をクビになった。

邱麗新女史はその黄岡市の市長で、同市は患者数では武漢市、孝感市についで湖北省で第3位だが、やはり「準備意識が足りなかった」として、記者会見の席で「我われ市政府トップは責任を感じている」と述べた。

そして高福氏は中国疾病予防コントロールセンター(CCDC)の主任を務める微生物及び免疫学者で、国家のトップ科学学術機関である中国科学院の生命科学及び医学部門の会員でもある。だが、新型コロナウイルス感染拡散の先頭に立るCCDCのメンバーでありながら、「2019年12月以降、密接に接触した者同士の間において人と人の感染が始まっていた」とする研究グループ論文を1月末に海外の学術誌に発表、世間を激震させた。

というのも、CCDCはその時点においても「人から人への伝染はまだ確認されていない」と宣言していたからだ。なのに、「19年12月以降始まっていた」とするその論文に、「科学者のしごとはこの非常事態時において、前線の治療活動に有用な情報を提供せず、ため込んでおいて論文を発表し、世界をあっと言わせて点数を稼ぐことか」と激しい批判が噴出した。その後、同じ研究グループの論文執筆メンバーの一人はその後メディアのインタビューに応えて、「あれは結果からさかのぼって推測したもの」と釈明した。しかし、「現場の問題解決協力よりも、外国の専門誌への寄稿に忙しい利己主義エリート研究者」のイメージは払拭できないままとなっている。

●「湖北八駿」の罪と罰

ここから先は

4,427字 / 1画像

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。