AOKI, hayato // ECHO, ROOM ECHO
アナログレコードについて
京都在住の音楽家・AOKI, hayato(青木隼人)さんのアナログレコード作品・ECHO - ROOM ECHO。
購入は岩手県盛岡市にあった「喫茶carta」へ葉書を使って購入申し込みをするというあたたかなスタイルで。
片面それぞれ1曲ずつの収録で"ECHO"はピアノ、"ROOM ECHO"はギターとピアノを演奏しています。
双方とも非常に静かな演奏、部屋に染み渡る音楽です。
CDではECHO(27分)、ROOM ECHO(44分)と長尺で収録。
アートワークのデザインは青木さんご本人、ジャケットの写真は写真家・大沼ショージさんが撮影したピアノがあった部屋の風景。ジャケットの製作はおそらく青木さんの作品も多くを手掛けているいらっしゃる竹内紙器製作所だと思われます。
楽曲制作の背景
青木さんの紹介ではかつて住んでいた杉並の借家で、大家さんの娘さんが使っていたピアノを借りて、調律して使っていたところに、展覧会の音楽の依頼があって、曲を作曲したという背景があると書かれていました。
大家さんのピアノは四畳半の部屋で食事をするテーブルのすぐ横に置かれ、生活に溶け込んでいたことで親しみがわき、気負わずに弾けたそうです。
”ROOM ECHO”はギターとピアノの演奏をカセットレコーダーに録音していて、質感がどことなくローファイで温かい響きです。
青木さんの音楽の魅力
青木さんの音楽は非常に音数が少なく、際立った展開もなく、無音の場面すらあります。でも、どうしてか、いつも青木さんの演奏は心に残ります。
青木さんの作品は環境音楽に通じるものが多いと思います。本作「ECHO, ROOM ECHO」は展覧会のための曲、他にもお花屋さんの店内音楽も手掛けており、どれも主張はしませんが、空間に漂い、確かに奏でられています。音楽が独り歩きしているわけではなく、それぞれの空間と対話して作られているように感じます。
青木さんはもともと津田貴司さんと「ラジオゾンデ」というユニットを組んで、ギターやクロマハープ、電子音、環境音などを組み合わせた即興演奏や実験的な試みをしていました。(アルバムを二枚発表していて、どちらも素晴らしいです。)
当時の制作方法の一つとして、一度録音したものを別の場所でスピーカーから鳴らして、再度マイクで録音し空間的に感じられる響きを付与するという手法を用いていました。まるでビートメーカーがMPCなどの古いハードウェアを通して独特の味を出す手法のようです。
ラジオゾンデなどで培った経験や技術が、現在のギターソロやピアノの演奏や製作に、部屋の響きや空気感、湿度を音楽の要素の一つとして溶け込ませていると感じました。しかもそれがしっかりと聴き手に伝わっていることに心が動きます。
以前青木さんのライブを聴きに行く機会があり、ソロの時もあれば、haruka nakamuraさんとの「Folklore」の時もありました。どちらも部屋の響きや環境の音が印象に残っています。小さい会場では、道路が近く外を車が走行する音も聞こえる程でしたが、それすら演奏の一部に感じられるほどの空間でした。
装丁の放つ魅力
最後にアートワークとジャケットです。
アートワークはいつも青木さんご本人が描かれています。
インスタグラムにも書いた絵をポストしていて、いつも小さめの紙に描かれています。ずっと眺めていたくなる優しい絵です。
ジャケットやケース製作の多くは横浜にある「竹内紙器製作所」という会社が手掛けています。厚手で頑強な紙素材を用いたり、表面がザラザラとした紙の質感を活かしていたり、作品を作品たらしめている大事な要素の一つになっています。
わたし個人的にとても思い入れのある会社で、カード類を収納する紙箱やステッカーやハガキを保存する紙箱などを何年も大事に使っています。
どうやら最近、紙製もレコード箱やカセットテープ箱を製作していらっしゃるようです。興味が尽きません。