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犬、その素晴らしき

愛犬が亡くなったのが一昨年の秋。
生後3ヶ月で我が家にやってきて、
15年と4ヶ月を共に過ごしました。

迎える前から
名前はカッコいい横文字ではなく平仮名表記で、
凝ったものよりシンプルで「ちゃんづけ」で呼べる名前にしようと決めていました。

あ行から始めて、いろいろ文字を組み合わせて考えてみよう!ということになり、
「あ‥あい‥‥‥あい。あいちゃん?いいんじゃない⁉︎」

なんと数秒で決定。笑

でもその名前の通り、
いつも穏やかで優しく、愛されキャラなわんこへと成長したのでした。
我が家に来てから半年間、いっさい吠えたり鳴いたりしなかったので不安になったほど。

ある日、お米を米櫃に入れるザーッという音に反応して「ワン!」と吠えた時は、本当に心の底から安堵しました。

そんなあいちゃんが豹変する瞬間。
‥‥それは食べ物が絡む時。
底しれない食い意地は、食べることが大好きな飼い主譲りだったのでしょうか。
歯茎を剥き出しにしながらガツガツ食べまくる形相は、普段のあなたと一体どちらが本当のあなたなの〜!とツッコミたくなるほどの落差でした。

食べるのが大好きなくせに散歩が嫌いで、毎日連れ出すのが大変でした。
散歩が嫌いだから無理強いすることもなかったのですが、なんせよく食べるので健康のためになんとか外に連れ出したい飼い主でした。

周りのものや人にあまり興味を持たない性格で、
犬にしてはドライなほうでした。
なので、散歩中にぐいぐい来る犬も苦手。
毎回すごーく迷惑そうな顔をしていました。笑

ただ、偉いなといつも感心したのはその人柄
(犬柄?)

吠えてくる相手にも常に冷静を保つ、その姿勢。
そしてどんなに大きい相手だろうと、逆に自分よりどんなに小さい相手だろうと一貫してその姿勢を変えないところ。

そんなあいちゃんですが、
なんとも勇ましい出来事もありました。

一度不審者に遭遇したことがあったのですが、
無言で不審者の前に立ちはだかり、その圧だけで見事追い払ったのでした。

またある時は、
はしゃぎ過ぎたラブラドールの子犬が座って相手をしていた私に覆い被さろうとし、それを見たあいちゃんが突如、怒りだしました。子犬とはいえ大型犬、体格差では完全に負けていましたが私と相手の間に割って入り、それまで聞いたこともないような声で威嚇したのです。その時はびっくりしてしまい相手の飼い主さんにひたすら謝るだけでしたが。
「私のこと守ろうとしてくれたんだ‥。」
後でそのことに気がつき、胸がいっぱいになったものでした。

10歳を超えても病気知らず。
その年齢になると白内障で目が白っぽくなる子が多い中、あいちゃんは綺麗なブラウン。
散歩で出会う人からも、よく毛並みを褒めてもらったりして。17歳くらいまでは一緒にいられるかな〜なんて、勝手に期待と想像をしていました。

でも変化は突然やって来ました。
14歳を過ぎたある日の朝。
いつものようにカリカリを食べ終えたと思ったら、落ち着きなく部屋中をくるくると歩き回っているあいちゃん。
久々に吐き戻しかな?と思いながらも様子を見ていると、それとは明らかに様子が違います。
キュンキュンと不安げな声で鳴き始め、ようやく私もこれはおかしいと思い始めました。

近くにいって声をかけましたが、あいちゃんはそれどころではない様子でキュンキュンという鳴き声はやがてキャン!という叫び声に。

そして、いきなり仰向けになったかと思うとキャン!キャン!と悲痛な声で鳴き続けました。
見ると、お腹が風船のようにパンパンに膨れ上がっているではありませんか‥!
慌てて子供達を起こし、急いで近くの獣医さんに電話をかけました。
自宅兼診療所のお医者さんでしたが
朝の6時半、いくら鳴らしても電話に出てもらえません。直接行った方が早いと判断し、あいちゃんを抱え財布だけを引っ掴み家を飛び出しました。

ペーパードライバーの自分をこれほど恨めしく思ったことはありませんでした。
早朝の町中に響き渡る、あいちゃんの悲痛な声。
大丈夫だからね、もうすぐだからねと出来るだけ落ち着いた声で話しかけながら必死で走りました。

辿り着いた病院のインターホンを、
同時に電話もかけながら何度も何度も何度も何度も押しました。ようやく気づいてくれた先生が扉を開けてくださり、すぐに診てもらえることに。

「おそらくお腹に空気が溜まってるんだと思います。」先生が処置してくださると、嘘のようにお腹は元通りに。驚いて私の後を追ってきた子供達も到着し、三人でホッと胸を撫で下ろしました。

「これ一回きりならいいのですが、もしもまた同じことが起こるようなら薬を飲ませたほうがいいと思います。」と先生。
加齢によるものか、胃腸の動きが鈍ることでお腹にガスが溜まるのだそうです。
その一ヶ月後に再び同じことが起こり、あいちゃんのお薬生活がスタートしたのでした。

犬を飼うと、春から秋にかけてフィラリア予防のためのお薬を与えます。お薬といっても今はフワフワのドッグフードかおやつのようなので、それはもう犬も大喜びで食べてしまいます。

それとは違い胃腸のお薬はガチのお薬でした。
人間が服用するのと同じ、白い丸い粒です。
ちゃんと飲むかなぁ‥なんて杞憂はいりませんでした。

あいちゃんですもの。みつを

他のものにヒョイと紛れこませるだけで丸飲みでした。すごい。ていうか、食べる時ほとんど噛んでないやろ。

散歩も無理に行かなくていいですよと先生に言われ、控えることにしました。
あいちゃんとのお別れは、
もしかするとそう遠くない未来かもしれないと覚悟を決める出来事となりました。

そこから一年後に亡くなるわけですが
亡くなる半年前になると、自慢の毛並みも歩き方も全てが変わってしまいました。

でも、相変わらず食欲は旺盛。
トイレも必ず自力で済ませる、本当にお利口で頑張り屋さんでした。
自力で動くのが困難になってきたのが
亡くなる一週間前。
オムツ生活もたったの一週間。
2日前になるとおしっこの回数が激減したので、
いよいよかもしれないと感じました。

ですが当日も自分で歩いて水を飲みに行き、果物を与えるとパクパクと食べていたので、
まさかその日が最後になるとはさすがに予想できませんでした。

19時頃、呼びかけても反応しないことに気がつきました。ですが横になったままとはいえ顔は穏やかで、呼吸も落ち着いています。
そのまま隣で映画を観ることに。

22時半を回った頃、頭を持ち上げて動きたそうにしていたのでフォローしながら起こしてやりました。
一瞬ですが自分の力で立ち、
すごいね!と褒めると歩きたそうにしています。
抱っこして水飲み場まで連れていき、
スプーンで水をあげようとすると横を向き拒否。
じゃあ戻ろうか?と立ち上がった瞬間、
私の下半身に温かい感触が。

失禁でした。
あぁ、最期なんだと悟った私はすぐに子供を呼びました。

覚悟もしていたし、こんな状態で長く生きているのは気の毒でならないと思ってもいたので動揺はしませんでした。

最後の瞬間まで、ちゃんとあいちゃんの顔を見ていよう。それだけでした。

抱っこしたままだと目を見ることができないので、
とりあえずその場でカーペットの上に寝かせました。静かだけど、何か訴えたそうな顔に私には見えました。
身体をさすりながら顔を見ながら、
何度も名前を呼んで「ありがとうね、ありがとうね。」と言い続けました。

ヒクッ!

大きく一度あいちゃんの顔が痙攣しました。
そして、それきり動かなくなりました。
ようやく涙が出ました。
あいちゃんが最後に見る私の顔が、
泣き顔や不安そうな顔になるのは嫌だったからです。

涙は、いつまでもいつまでも止まりませんでした。行ってしまった。
あいちゃんがいなくなってしまう。
この家にあいちゃんがいなくなるなんて。
想像したこともあったけど、想像しただけで泣いてしまっていた。そんなの耐えられないと。

その日は一晩中眠らず、ただただ泣き続けました。

翌朝ペットの葬儀屋さんに電話をすると、
葬儀は明日の午後からになるとのこと。
つまり、それまではあいちゃんと一緒にいられるわけです。
肉体が消えて無くなることの喪失感を
父との死別で経験していたので、
あいちゃんの肉体がこの世にある時間は
とても大事なことでした。

丸一日と半日しっかり一緒にいましたが、
葬儀当日はこのまま側に置きたいと願う気持ちと、それはあいちゃんが可哀想だと諌める気持ちと半々。そもそもずっと置いておくなんて、剥製にでもしない限り無理なんですけどね。笑

ネットで探した葬儀屋さんは素敵な方々でした。
自分が譲れない条件と火葬場の立地。
それらをもとに色々と調べた結果でしたが、口コミの評価通り優しく心のこもった見送りをさせていただけました。

山の上にあり、
その日の天気は雲一つない突き抜けるような快晴。悲しい気持ちも一緒に空へ持っていってもらえるような‥
そんな気持ちになりました。

それでも最初は毎日泣いて。
少しずつ泣かない日ができて。
気がつけば泣いていない日が続いて。
月命日には必ず泣いていましたが
それも少しずつ泣かないで迎えられるようになり。今でも思い出しては涙が出ますが、
それは亡くなってから27年になる実家にいた猫とて同じです。

ただ、歴代で犬や猫がいるお家のように
次の子を迎えようという気には
まだなれないままです。
何匹も迎えられる皆さん、本当に尊敬いたします。今はうちの子を迎えるより、もっと別の形で何かができたらいいだろうなぁ‥とぼんやり夢想している感じです。

余談ですが、お世話になった獣医さん。
昔、道に置かれていた瀕死の子猫を連れて行き、そのまま診察台で亡くなったことがありました。
料金はいりませんと言ってくださり、どこかに埋められるなら一緒に入れてあげてねとお花までくださった、めちゃくちゃ優しい先生なのです。
先生ご一家に幸あれと願わずにいられません。





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