1番大切な本。ヘルマン・ヘッセの『春の嵐』
ありきたりですが、1番大切な本や小説って何ですか?
私にとってはヘルマン・ヘッセの『春の嵐』がそれにあたります。「感動した」とか「人生が変わった」とかではなく、「何だか消化不良のまま胃の中に残っている」という感じ。
実は物語自体はそんなに心に響いてないのですが、最初の数ページ、とりわけ冒頭の数行が消化不良のままなのです。
自分の一生を外部から回顧してみると、特に幸福には見えない。しかし、迷いは多かったけれど、不幸だったとはなおさら言えない。
あまりに幸不幸をとやこう言うのは結局まったく愚かしいことである。
なぜなら、私の一生の最も不幸な時でも、それを捨ててしまうことは、全ての楽しかった時を捨てるよりも、辛く思われるのだから。
避けがたい運命を自覚を持って甘受し善いことも悪いことも十分味わいつくし外的な運命とともに偶然ならぬ内的な本来の運命を獲得することこそ人間生活の肝要事だとすれば私の一生は貧しくも悪くもなかった。
外的な運命は、避けがたく神意のままに、私の上をすべての人と同様に通りすぎて行ったとしても、私の内的な運命は私自身の作ったものであり、その甘さ苦さは私の分にふさわしいものであり、それに対しては私ひとりで責任を負おうと思うのである。
何が消化不良なのか。納得して飲み込んだが、なぜか消化できない。未だによく分からないでいる。分からないからこそ、私の1番大切な本になった。
20歳くらいの時にバスツアーをしたときに、バスガイドさんとちょっと仲良くなった。私は好意を持っていたんだと思う。バスガイドさんはどうだったか、多分ツアー客の1人に過ぎなかったはず。
ツアーの終わりに私は『春の嵐』の文庫本をバスガイドさんにプレゼントしようと思った。電話番号を書いたメモを挟んで。装飾も何もしていない、新潮社文庫の本である。
結局、本は渡さなかった。渡せなかった。そして自分の部屋の本棚に同じ小説が二冊並ぶことになった。
今思うと狂気だ。
みなさんにも大切な本はありますか?もし良かったら教えてください〜。
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