『最強のコミュ力のつくりかた』コミュ力とは人としての魅力なのだ
皆さんはコミュ力に自信がおありだろうか?もしそれほど自信がないのであれば、本書の冒頭に記されている言葉はかなり衝撃的なはずだ。本書はこのような書き出しから始まる。
どうであろうか。バットか何かでぶん殴られたような衝撃を受けないだろうか?かく言う私もコミュ力が低いことを自認しているため、本書の冒頭部分を読んだだけで、KO負けしたかのようなダメージを食らった。何しろお前には人としての魅力が欠けていると言われているのだ。これほどの攻撃力ある言葉もなかなか無いではないか。しかも厄介なのは、これが個人の経験のみで書かれた自己啓発本ではないということだ。本書はサイエンスジャーナリスト鈴木祐がコミュニケーションに関する科学データ3128個を精読し導き出した帰結なのだ。某論破王気取りで「それって、あなたのかんそうですよね」などと言って済まされるものではないのだ。
ここまで読んで絶望的な気分になってしまった人も多いであろう。なにしろ株式会社JTBが行った調査では58パーセントの人々がコミュ力に自信がないと回答しているという記事もある。多くの人たちがコミュニケーションに不安を抱えて生きているのだ。
しかしなぜコミュ力に人としての魅力が必要なのであろうか?そもそも人としての魅力とはどのようなものなのか?コミュ力に必要なのは巧みな話術や理論、あるいは自信に満ちたボディーランゲージなのではないのか?といった疑問が頭をもたげてくる。本書冒頭でこのような疑問に対してしっかりとした答えが用意されている。
まずは世間で言われているコミュニケーションに関する勘違いを3つ取り上げている。
①「伝え方」にこだわる
②「ボディーランゲージ」にこだわる
③「見た目の良さ」にこだわる
まず最初の「伝え方にこだわる」だが、実はこれは重要ではあるのだ。しかし話し方や話術、理論に関する優れたレトリックを駆使してもそもそも好感度の低い人が相手を説得できる可能性は低いという。つまり、人として好かれていなければ話しすら聞いてもらえないといのが現実だ。「伝え方にこだわる」ことが功を奏するのは、人間としての魅力という土台がしっかりと固まっている場合のみ有効ということらしい。それどころか、魅力の欠けた人が巧みな話術を駆使した場合、かえって相手に胡散臭い印象を与えてしまうというのだ。
次にボディーランゲージに関する勘違いだ。このような非言語的コミュニケーションももちろん重要ではあるのだが、意図的なボディーランゲージは副作用の方が大きいという。例えば相手と同じ動きをすると好意を持たれやすい、などと一時期テレビなどでしきりにもてはやされたミラーリングという考え方がある。実はこれはすでに否定されており、意図的に相手の行動をまねると返って相手に「うすら寒い」感覚を与えてしまうという。ミラーリングとはお互いに好意を持ちあった者同士が自然と同じ行動をとるようになる現象なのだ。つまり原因ではなく結果の産物というわけだ。その他にも世間で勘違いされているボディーランゲージなどがいくつか紹介されているので是非とも本書で確かめてほしい。
次にルックス問題だ。こちらも当然だが、影響が皆無というわけではない。しかし、ルックスの魅力が人に影響を与えるのは3か月ほどだという。どんなに見た目がよくとも人間として魅力という基礎がなければ、付き合いを重ねるうちにその魅力は下がってしまうのだ。
では人としての魅力を決める要因とは何なのか?どうすれば魅力を高め、コミュ力を上げることができるのであろうか?
著者は人としての魅力を下げる要因を3つにまとめている。
①嘘が多い
②感情が幼い
③性格が悪い
正直で情緒が安定し性格がよければ人としての魅力に富み、結果的にコミュニケーションが円滑に進むというわけだ。言われてみれば当たり前のような気もするが、基本的であるがゆえに疎かにされていることでもあるのかもしれない。ちなみに、嘘が多いという一番目の項目だが、「いや、俺は嘘なんてほとんどつかない」という人もいると思うが、ここでは自分に対する嘘や空気を読むという行為も含まれるという。例えば、本当は楽しくないのに周りに合わせて楽しそうにする、緊張しているのに落ち着いているふりをする、といった行為も嘘にあたるのだ。これは心あたりのある人も多いのではないだろうが。だが、嘘を少なくするために本心をズバズバ言えば、当然周りからは性格が悪いと思われるのではないか?という疑問もわくであろう。実はその疑問は最もで、この点の対処の仕方なども本書で紹介されている。
とは言うものの、人は自分を客観的にみるのが苦手なものだ。3つの項目のうちどれが自分に当てはまるのかよくわからないという人も多いであろう。だが安心して欲しい。本書で魅力度テストという心理テストが用意されているのだ。ちなみに私は感情が幼く、性格が悪いという結果になった。なんだが人としてどうなのかという気分だが、ここからが重要だ。この3項目の問題点を改善するためのワークがしっかりと記載されているのだ。このワークを愚直にやり込めば、人間的魅力は必ず上がるという。さらに3項目すべて高得点をとれるようになった人が、カリスマ的な影響力を手に入れるための上級者向けテクニックも紹介されている。カリスマ研究に基づいたこれらのテクニックを身につければ、私たちの影響力は爆上がりする。最も基礎固めができていない人が上級者向けテクニックを使うとペテン師のような印象を持たれてしまうため注意が必要なのだが。
人ははるか古代からコミュニケーションの問題に悩まされ続けてきた。古代の偉人たちの著述にもコミュニケーションの問題に関する記述を見ることができる。しかし、行動心理学や社会心理学の発展によりこれらの問題を解決する方法がわかり始めている。しかし、本書が示す通りコミュ力とはその人の本質に根差した人としての魅力である以上、根本治療は望めない。改善あるのみなのだ。またその改善も小手先のテクニックではいかんともしがたいのである。本書を読み、ワークを実践し一歩一歩と魅力的な人間に自身を改善し続けるしかないのである。
千里の道も一歩から、頑張ろっと……
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