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埋まらない穴

「さっきからずっとなにをしているんですか?」

「穴を埋めているんです」

「ずっとやっているんですか?」

「そうです こっちの穴を埋めようと思って土を掘るとこっちにも穴ができるんです そしてその穴を埋めようと思ってまた隣の土を掘るとこっちにやっぱり穴があくんです」

「いったいいつからやっているんですか?」

「もう忘れてしまいました ずっと昔々からやっている気もします」

「それで少しは穴が埋まりましたか?」

「だめですね まったく埋まらないですね」

「楽しいですか?」

「楽しいときもありますし楽しくないときもありますが穴があいているとよくないですから」

「あなたは穴が空いている状態はよくないから穴を埋めないといけないと思っているというわけですね」

「そうですね それでずっと穴を埋めることを続けてきました」

「これからも続けたいですか?」

「どうでしょうか 続けたいか続けたくないかというより穴があるので埋めないといけないという感じですかね、、、」

「穴が空いていると不安ですか?」

「そうですね とても不安ですね いつ誰が落ちるかわかりませんから」

「穴を埋めていると安心しますか」

「そうですね 汗をかいて穴を埋めているときは不安な気持ちを忘れることができますね」

「わかりました あなたが日々 一生懸命 穴を埋めていることはよくわかりました そしてあなたはそれに数限りない時間を費やしてきた そのことは称賛すべきことでしょう でもよく見てください

あなたは穴があると思って一生懸命がんばってきたけど穴なんてどこにもないのです はじめから存在しないのです」

「そんなはずはない ここに穴があるじゃないか きみには見えないのか」

「あなたには穴に見えるかもしれませんが私にはむしろ小さな山に見えます」

「じゃあわたしが長い間やってきたことはいったいなんだったんだ 意味がなかったというのか」

「意味がないとは全く思いませんよ でもあなたは穴を埋める必要はないのです」


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