おれの中で松本大洋が再び来てる
たまに、漫画、アニメ、ゲーム、小説などの話をする友人がいる。ある時、こう聞かれた。
「松本大洋って、最近読んでますか?」
読んでない。読んでないなあ、そういえば。
年齢にもよるだろうが、90年代からゼロ年代初頭にかけて、皆がこぞって読んだイメージのある松本大洋作品。『鉄コン筋クリート』『ピンポン』あたりが代表作になるのだろう。体感だと、この2作品、特に『ピンポン』に関しては、周りでもかなり読まれていたように思っている。
発売日になると、誰かしらがスピリッツを買ってきては、その辺の人間で回し読みし、すっかりその気になった我々は勇んで卓球場に出かけたりしたものだ。
「最近どんなの描いてるんですか?」
「『Sunny』っていうのをこないだ読んだんですけど。」
「ほう、なんかそれは確かに本屋で見かけますね。どうですか?」
「これが、、、よかったんですよ!」
なるほどー。聞けば、児童養護施設的なところの少年少女の群像劇だという。
(あとで知ったが、サニーはサニーで結構前に完結している作品だ)
まあ、実のところ、自分は基本的に「子どものツライやつ」は苦手だ。なので、うーん、そっか。という風に曖昧に聞いていた。
思い返してみれば、『鉄コン筋クリート』も子供のやつだったな。なんかそういう可哀想な感じもあるけど、力が湧いてくるような、なんかそういうやつなんだろうなあ。などと思いつつ。
「別に、今更ってことでもないんですが、松本大洋に特にピンと来てないところはあるんですけど」
「いやー、なんか、すごくいいんですよ。そういわずに、また読んでみてください。」
あまり人のことは言えないが、自分の友人には感想がうまいやつは少ない。目利きはいつも確かなんだが。
ともあれ、結局、その話はしばらく忘れていたのである。
しばらく後、愛読書の『百鬼夜行抄』を探して、自宅のスライド本棚を開け閉めしていた時。そこに、あるはずのないものを見つけてしまった。
「サニー持ってるやん」
そこにはあった、『Sunny』が2巻だけ。
さてこれはいったいどういう事だろうか。いつ買った、なぜ買った、どうして中身を覚えていない(重要)。
奥付を見ると、2巻の初版が出たのが2012年3月。2刷で買っているので、2012年4月頃に2巻まとめてお買い上げしていたようだ。
うーむ。また読んでみるか。そう思って、本棚を閉じた。
そしてまた時は流れた。
先日、松本大洋の新作コミックが出た。
大手出版社を早期退職した漫画編集者と漫画家の物語を描いた、『東京ヒゴロ』の1巻だ。
装丁をみて、今度はピンときた。なんだこの、本屋大賞受賞本みたいなジャケは。これはなんかありそうだぞ。
というわけで、早速買って読んでみた。ちなみに、最近は漫画はもっぱら電子で買っている。なぜかというと、漫画は冊数が多くて場所を取るのと、何巻まで買ったかわからなくなるので、重複購入などの事故が起こりやすいからだ。
読んですぐ、画に圧倒される。フリーハンドの線の味。なんか歪んでるけど、でも魅力のある空間の描写。ひとつひとつのコマが、映像作品のカットのように感じられるコマ割りは、画面が動いているようにすら感じられる。
昔のわりとはっきりした黒ベタと白のコントラストで魅せていくようなオシャレな感じともまた違った、味わい深い手書きの濃淡。これは紙で持ってても良かったかもなあ。
まだ1巻なので話はきっと序盤。話の続きももちろん気にはなるが、画を見るためだけでも買っていい。続きが楽しみだ。
そういえば、サニーあったな。この際だから読んでおくか。
ちょっと読んでみると、1巻は確かに読んだ記憶が多少ある。2巻になると実際記憶にない。読もうと思って買ってちょっと読んだが、きっと、何かにかまけて忘れてしまったのだろう。全巻ポチって、一気に読んでみた。
確かに、これはちょっと画がついてないと説明しずらい感じはある。物語というよりは、登場人物を丁寧に描いて見せるような作品だと思う。子どもたちの子どもらしさ。子どもなりに感じる事や考える事。そして大人たちのやさしさ。そして、わずかずつの成長。同じ境遇に置かれたことはないけど、ちょっと心に触れる部分があるようなエピソードから、切なさや寂しさみたいなものと同時に、暖かさが画面を通じて心に響いてくるような作品。
いやー、なんかよかった。
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