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【短編小説】にんげんかんさつ#シロクマ文芸部

 ただ歩くだけじゃもったいないので、散歩の帰り道にすれ違う人たちを人間観察をやってみた。
 日常日課の散歩道も見方を変えれば、ぼくだけの心が小躍りするお楽しみになるのだ。

 あの老紳士は何をしているのだろうか。いつも同じ時間に出会うけど、特別挨拶することはなく、ただただ通り過ぎるだけ。言うならぼくの日常のひとかけら。
 実は大金持ちの旦那様だったり。散歩から帰るとふさふさで大きな愛犬が飛びつくように、お迎えに出てくるのではないのか。とか。
 あの女子中学生は連れているチワワを溺愛しすぎて、ちょっとチワワから面倒くさがれてるのかな。とか。おっと、チワワから吠えられた。小動物は生意気で困る。
 あの青年はよく、ぼくに挨拶はしてくれる。好青年といえば好青年。清潔感あるし、笑顔は素敵なんだけれど、家では寂しい思いをしてるんじゃないのか。彼はそういう目をしている。だからぼく風情に「元気?」と、ちいさな関係を作りたがってるんじゃないのだろうか。とか。

 ちょっとばかし、出会う人々に対して好き勝手思いついているうちに、時間はあっという間に過ぎて、ぼくの家に到着。

 「さ、ポチ。足を拭いて」
 おいおい、ぼくの足を気安く触る我が家の妹ちゃん。齢六歳の女子小学生ちゃん。ぼくの肉球をそんなに握るとくすぐったいぞ。
 「ポチがわたしの言う事聞かない」って、ふくれっ面をするけれど、この家では、ぼくはきみのお父さんの次に偉いんだよ。知ってた?お犬は自分を含めて家の者に順位をつけるってことを。
 きみなんか、一番下だしね。


シロクマ文芸部さまのお題『ただ歩く』に参加させて頂きました。

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