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私の友達

 『ボールは友達』ーーキャプテン翼
 
 普段ボサノバを歌っている私に師匠が言った「ギターをやると歌がうまくなるよ。ギター選び、付きあってあげるよ」

 師匠は駅前のガードレールに腰掛け私を待っていた。ポロシャツにジーンズ姿で、私を見つけるや二本の指をおでこにかざし「やあ!」ーーカルロストシキのように爽やかだった。

 中古楽器店の階段を昇ると、数多のクラシックギターに出迎えられた。予算を伝えると、師匠は目ぼしいものを片っ端から弾いていった。楽しそうに「これいいね」「これもいいね」と、座っては立ってを繰り返し、次から次へとギターを弾く師匠。その様子を眺めながら、師匠が目の前で私のためだけに演奏している贅沢さを感じる一方で、嫌な予感もした。このギター選びは難航するかもしれない。

 私は何かを購入する際、それぞれの長所や短所など比較しながら、理論的に検討する。時に一つを選べず、結局何も買わないことも。これだけ夢中になっている師匠の前で「やっぱり今日は買いません」と伝える時、私はどんな顔になるだろう。

 何時間過ぎただろうか。師匠がマグロ漁師の如く、両手にギターを持ち上げ「これか、これだな」ーー急展開だ。師匠が右手に持つギターを見て、私は驚いた。それは、私が階段を昇り終えた途端目の前に重なった、フロアー一面を覆い尽くす大群の中で、パッと目に留まり素敵と思ったギター。師匠は左手のギターを持ち上げ「僕だったらこっちかな。いい音だ。ライブで使えそうだな。マイクを中に取り付けて。しかもこれ日本製だよ!」色々言っているが、耳に入らない。買うのは私なのだ。

 私は横に置き去りにされたギターを手に取り、じろじろ眺め始めた。前面のホールに縁どられたシックな色調のエキゾチックパターン。背面中央に入る木目ダークブラウンの縦ライン。シンメトリーで、アールヌーボーで、トレビアーン。

 「私、これにします」
 「なんで?」と聞く師匠に、私は答えた。
 「カッコいいから」

 こうして私にイケメンの友達ができた。

 『楽器は友達』ーーわみ

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