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幼虫Aと幼虫B


我が家の最近の注目は机の上の虫かごに集まっている。


母が急に私が小学生の頃に使っていた虫かごを倉庫から引っ張り出してきて
大切そうに覗いている。


「どうしたの?」と聞くと
中には木の枝と葉っぱ、そしてよく見ると小さな幼虫がいた。


「いつもアゲハ蝶の幼虫を見つけるんだけど
しばらくしたらいなくなっちゃっているの。
虫に詳しい人に聞いたら
おそらく鳥に食べられちゃっているって。
だから家の中で守ってあげたいの」


とのことだった。


そして最初に迎え入れた幼虫は
悲しいことに途中で天国に行ってしまった。

原因は分からないが
脱皮に失敗したのか、枝から落ちてしまったのか…
気づいたら動かなくなった状態で
虫かごの底にいた。


そして次に現れたのが幼虫Aと幼虫Bだ。


また2匹見つけてきて、それぞれがわかるように
幼虫AとBと名付けたようだ。

「幼虫Aは葉っぱ食べてたんだけど、Bの食べてるところはまだ見てなくて…」
などの会話が家族の会話に加わった。


私はそれを聞いた時に
「AとBって…なんか実験に使われている子たちみたいだね」と思った。


ただ、母はこう答えた。
「今度こそ守ってあげたいの。
でも名前をつけたのに、亡くなっちゃったら
とてもとても悲しいじゃない。だから今はAとBって呼ぶの」

なるほど。


でもね、お母さん。
私は知っているよ。
最初の子が急に亡くなっちゃったとき
すごく残念そうに悲しそうに
虫かごを何回も見ていたのを知っているよ。


AとBと呼んでいるとしても
名前をつけていないと思っていても
結局は愛情が強い人だから本当は
どんな風に呼ぶのかは関係ないんだよね、と。


そのやり取りの夜
名前を付けるってすごく愛に溢れた行動なのかなと思った。


私は自分の部屋を見渡したが
なにか名前を付けたものがあるわけではない。
でもそこに何か名前をつけたものがあれば
それは一気に大切なもののように感じられるだろう。


大切にしたいなと思ったものがあったら
それを他の人には明かさないにしても
自分だけの名前をつけて
大切に育てたり扱いたいなと思った。


幼虫Aと幼虫Bが
綺麗なアゲハ蝶に成長して喜ぶ母の姿が楽しみだ。


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