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1959年金獅子賞受賞「ロベレ将軍」_何故、仮面を引き受けた?

これは、偽りの仮面を引き受けた男の物語だ。名を騙る。最初はほんの軽い気持ちだった。

第二次大戦末期のレジスタンスの英雄、デッラ・ロベレ将軍にまつわるきわめて奇異でイタリア的な実話をネオレアリズモの旗手、ロッセリーニが軽妙に、劇的に描く、『無防備都市』をひっくり返したような異色のヒューマンドラマ。その弛まざる演出に応えた役者、デ・シーカが渾身のアンチヒーローを体現し、最低の詐欺師の中にも奇跡的に芽生える正義感(ないし人間的使命感)を表して尋常ならざる感動を呼ぶ。
【スタッフ】
監督:ロベルト・ロッセリーニ
【キャスト】
ヴィットリオ・デ・シーカ、ハンネス・メッセマー、サンドラ・ミロ

マーメイドフィルム公式サイトより引用


時は1943年、イタリアが連合国側と枢軸国側に分かれて内戦真っ只中だった頃。
ヴィットリオ・デ・シーカ主演する主人公バルドーネは、ゲシュタポに逮捕された父の帰りを待ちわびる家族たちに、釈放を交渉してやろうと持ちかけては報酬として金や貴金属をせしめ、そのままアバよとトンズラする、ペテン師。
他人の弱みにつけ込む、卑怯で口八丁な売国奴だ。

せしめた金で賭博にうつつを抜かしていた彼にも、ついにお縄を頂戴する日がやって来る。
彼を逮捕したナチス・ドイツの憲兵が思いついたのは、近頃巷を悩ますレジスタンスを炙り出すやり口。
すなわち、無罪放免と引き換えに、パルチザン側のリーダーの1人:ロベレ将軍に成り済まして、ミラノの刑務所に入ることを、バルドーネに承諾させたのだ。

狙いは、「ナチスが将軍を捕らえたという偽情報」に踊らされたパルチザンが蜂起を企てるのを炙り出すこと、それに呼応して刑務所で反乱を起こそうとする囚人を見つけ出すこと。(なお、本物のロベレ将軍は既に殺害している)
「ま、いいか」と軽い気持ちで牢屋に入るバルドーネこと「ロベレ将軍」。

しかしそこで目撃したのは、耳に入れたのは、占領下イタリアでの抵抗と弾圧、切々とした生のリアリティであった。
それは、人を化かすピエロになるつもりだった「ロベレ将軍」の生き方を、
変貌させるほどの衝撃で、迫ってくる。


彼が刑務所の中ではじめて目にしたのは、拷問の末処刑されたパルチザンが、最後に壁に書き残した叫び。
母へ残した生きたいと言う叫び、同胞に残した反抗を訴える叫び。
よりにもよって刻まれているのは、「ロベレ将軍」が入る独房。
朝、目覚める度に、彼はその叫びを目にすることとなる。

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部屋の外に耳をすませば、「いま、この時間に」囚われているパルチザンの生の声がこだまする。
そして彼が名を名乗れば「ロベレ将軍」を讃える声が、こだまする。
「自分は大役を担わされている」
彼は動揺する、しかしペテン師一流の演技で泰然自若、仮面をかぶる。

だが「ロベレ将軍」は、しょせん偽物。本物と違い、訓練された兵士ではない。
穏便な策でパルチザンを炙り出す策は、「ロベレ将軍」のポカによって、いともたやすく失敗する。
やむなく看守=ナチス側は、暴力に訴えるほかなくなる。
当たり前だがナチスにとって囚人全員が疑わしいのだから、そうである者にも、そうでない者にも、無差別に振るわれる暴力、そして死。
(他方で、外のパルチザンたちも、次次と炙り出されて、殺される。)
その断末魔を、否応がなしに耳にさせられるうち、
塀の外では遠い存在だった囚人たちは
長く共に日を過ごす内「ロベレ将軍」にとって近しい同胞となった。

潜伏するパルチザンは、見つからない。
ナチスの判断は「囚人全員を処刑」。
処刑の前となれば、パルチザンも口を割るであろう、という判断。
パルチザンだったものも、そうでないものも、最期を前にして、「ロベレ将軍」を前に告白を行い、または赦しをこう。
「ロベレ将軍」は「死の恐怖に屈するな、ナチに屈するな」と、彼らを勇気付ける。「ロベレ将軍」は、すべてのイタリアのために戦うパルチザンを守護するロベレ将軍「そのもの」となることを受け入れる。

死刑囚の中にパルチザンは存在した、だがその正体をロベレ将軍は吐かない。
そして「イタリア万歳」の書き置きを残して、
みずからの意志で、死刑宣告された囚人と共に、銃殺される。

ただの人間が、ふとしたことから英雄として祭り上げられ、死んでいく。
いや、正確には「英雄の仮面」を被った凡庸な人間が、最後には英雄として、死を、引き受ける。
これは喜劇か、悲劇か?
いずれにしても、「道化が世界を動かす」
その死が、イタリア全土のパルチザンを呼応させることを予感させる
偉大な殉教者をみごとに演じ切ったヴィットリオ・デ・シーカの
最初は軽く、後には重々しい演技力は、いま見ても、驚くに値する。


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