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「てっぺんに上って注目を一手に集めたいって? 夢だけで見てろ。」"NOPE(2022)"

人間対空飛ぶスパゲティモンスターの戦いを描いた(嘘)ジョーダン・ピール監督「NOPE(ノープ)」より。
突如空から降ってきた飛来物をきっかけに、得体の知れない何かが兄妹を襲ってくる恐怖が、IMAXカメラでダイナミックに切り取られている。
なんといっても、モンスターが有する、カービィも真っ青の吸い込み描写がオソロシイ。空中から食い殺したヒトビトの肉塊と残骸と共にゲロる、絵的にきついシーンすらある。美しく撮れているので、シャイニング感すらある。

エヴァンゲリオンよろしく元ネタやオタク知識、黒人や西部劇はじめとする映画史への造詣に至るまで、細部まで凝って凝る一方で、物語の本筋は「「いつか有名になりたい!」という潜在的な欲求に駆られた者が、無謀な行為の果てに命を落とす。欲が身を滅ぼす」という教訓。

切羽詰まったヘイウッド家。陰キャの長男:OJ(演 - ダニエル・カルーヤ)と陽キャの妹:エメラルド(演 - キキ・パーマーは、UFOを撮影し高値で売ることを考える。試行錯誤して、結局小手先では撮れるはずもないことを知り、プロに依頼することとする。フィルムカメラをぶん回す、撮影監督にしてドキュメンタリー作家でもある一見ストイックな職人:アントラーズ・ホルスト(演 - マイケル・ウィンコット)が依頼先。
「ゴマスリと前置きばかりで全く用件を切り出さない(隙があれば「この写真でビッグになるの!」の自分語り)」エメラルドの依頼に対して、職人は、この通り、突き放す一言。

Antlers Holst: This dream you're chasing, where you end up at the top of the mountain, all eyes on you... it's the dream you never wake up from.

https://www.imdb.com/title/tt10954984/quotes/

言い方には「首だけでも夢を見てろ。」というきついニュアンスが込められているよう。要は、何をしてほしいのか、とっとと話せ、っていうことだ。
エメラルドもバカではないので、詳細な依頼を切り出す、それでは話はとんとん拍子に固まるのだった。

他方で、カメラマンの性分なのか、ドキュメンタリ作家の業なのか。スパゲティモンスターという、見えないものを見ようとする、いや、嫌がろうがお構いなしにありのままの姿を引き出そうとすることに、取り憑かれている。「マンイーター」のモンスターと聞いて、ポロリともらす一言。

Antlers Holst: [gravely and sinister] It was a one horned... . one eyed... flyin' Purple People Eater... . a one horned... . one eyed... . flyin' Purple People Eater... a one horned... . one eyed... flyin' Purple People Eater... Looked pretty strange to me.

https://www.imdb.com/title/tt10954984/quotes/

果たして、
入念な準備のおかげで、モンスターの絵が撮れた、さあこれで安心だ… と思ったら。「じかに見せろ」「もっと近づいて姿を撮りたい」その衝動にかられたホルストは、撮影場所から居てもたってもいられず飛び出して、手持ちキャメラで、ぎりぎりまで近づいて彼の姿を拝もうとする。喰われる。
モンスターは激怒し、大地をまんべんなく吸い上げ始める。兄妹(と馬一頭)は望まざる、戦いに身を投じる羽目となる。


もうひとり、有名になりたがってる奴がいる。元子役で、現在は西部劇テーマパーク「ジュピターズ・クレイム」のオーナーで、大家族に恵まれてもいるリッキー・“ジュープ”・パーク(演 - スティーヴン・ユァン)だ。
このオーナーは、自らの事務所の隠し部屋として、子役時代に出演したシットコムの資料室を設けている。有体にいえば「スポットライト症候群」に罹っている、という伏線。

子役時代の実体験から、未知との遭遇に魅入られたリッキーは、キャトルミューティレーションにのめりこんでもいる。あるいは、「宇宙人呼び出したオレすごいでしょ」アピールをしたかったのかもしれない。
パーク内で、宇宙人を呼び出す行為を毎週金曜日、6カ月にわたって行っていたリッキー。(真夜中に煌々と明かりを灯して行うので、OJはこれをよく思っていなかった。)
やってることは「未知との遭遇」デビルスタワーの信号と同じ。
しかし、それは好戦的な未確認生命体を「ここが縄張りだ!」と調子づかせる結果となる。ショーに集まっていた四十数名(オーナーの妻、3人の子供含む)が喰われる全滅劇となる悲惨。


以上、二人の顛末は、

わたしはあなたに汚物をかけ、あなたを辱め、あなたを見せ物にする

旧約聖書の一節、ナホム書3章6節のエピグラフ

映画導入部の引用に呼応している。
ナホム書は、残虐の限りを尽くしたアッシリア帝国に神が裁きを下すことを告げる予言の書。上記の一節は“傲慢な人間に神はこのように罰を下されるぞ”という意味であり、つまり“これは傲慢な人間に罰が下される映画だ”と、冒頭で提示されるのだ。
「見る欲望」「見られる欲望」「映画の本質がつまりは見せ物」「承認欲求」 映画を見終わった後に、かようなキーワードがふわふわ頭に浮かぶ、本作全体を指し示す重要なセンテンスだ。


ともあれ、監督の過去作「ゲット・アウト」や「アス」よろしく、全編、神経質な緊張感がピリピリ張りつめた本作。
癒し枠は最後までついてくるホームセンターの店員…ではなく、OJの愛馬:ラッキー君だろう。伏せ、常歩、速歩、駈歩、襲歩、後ろ足で蹴る。OJの仕事ぶり同様、馬好きだからこそ撮れる細かい描写。馬映画としても欠かせない一本だ。


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