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あたたかいところが、欲しかったんだ…日活ニューアクションの傑作「流血の抗争」。

プライムビデオに大量に配信されている日活アクション映画。
「古い映画の悪いところを煎じ詰めた、安易な作品ばかり」と思っている方も多いことだろう。 それで見限るのは、あまりに:もったいない!

日活も絶命寸前だった60年代末に異彩を放った「日活ニューアクション」。
その特徴をひとことでいえば「複数のスターを使った集団抗争」。
ヤクザの縄張り争い、組織の中で爪弾きにされる下々の衆、犠牲になる無垢の人々、その復讐心に由来するカタルシスはあれどやるせない最後の殴り込み。
それでいて、アクション(擬斗)は、日活らしくタイトで無駄がない。

「東映実録路線」にも間違いなく影響を与えていると言える、作品群。
高度経済成長の一途な夢も終わりを迎えつつあり、ベト戦、文革、公害、政変、日本が(いま同様に)揺れていた頃。やるせなさ、退廃感、妙に胸を打つ。

今回は、そのうちの一つを紹介しよう。
監督は水谷豊の「相棒」のメインを務めた長谷部安春
鏑木創の音楽はオシャレで、中盤までをノリにノせる。

監督 長谷部安春
キャスト 手塚直人=宍戸錠 吉永博=佐藤允/吉永雅江=梶芽衣子 増沢純子=三条泰子 小沢浩次=藤竜也/田村徹=沖雅也 秋庭辰治=植村謙二郎 小峰信次郎=戸上城太郎 増沢久雄=三田村元/森岡=木浦佑三 寺崎=青木富夫 崔=玉村駿太郎 高橋明 立花=長弘 杉山元 志村征助=雪丘恵介/重盛輝江 市村博 亀山靖博 光でんすけ 荒井岩衛 瀬山孝司 ボディガードB=熱海弘到 中平哲仟/有村道宏 北上忠行 小見山玉樹 小島克巳 氷室政司 大倉賢二 きむら章平 森田蘭子 技斗=田畑善彦/胴元=郷鍈治 深江章喜 星野五郎=内田良平  
脚本 永原秀一
音楽 鏑木創 
その他スタッフ 原作/原案=三城渉 撮影/山崎善弘 照明/森年男 録音/片桐登司美 美術/佐谷晃能 編集/鈴木晄 助監督/白井伸明 製作主任/松田文夫 スクリプター/大和屋叡子 色彩計測/畠中照夫 現像/東洋現像所

ニュータウンの建設や工場誘致が決まり一躍脚光を浴びてきた新興都市K市。秋庭一家と志村組が仕切っていたこの町に新しい利権を求めて東京から乗り込んできた誠信会、宇田川組の進出により不穏な空気に包まれる。秋庭一家の代貸で二代目を継ぐ手塚直人(宍戸錠)が五年の刑を終えて出所するがシャバはすっかり変わり果てていた。宇田川組は巧妙な手口で志村組と手を結ぶ一方で誠心会は腕利きの星野を秋庭一家へ送り込み、手塚の留守を狙い幹部・増沢を“預かり盃"と称して人質同然に東京の本部に連れ去っていた。そして、宇田川組は冷酷悲惨な計画を実行し始める─。

日活公式サイトから引用

一応は、熱い抗争。 ありがちだけど。


さて本作、前中盤にかけては、「ヤクザものあるある」で、人によってうすあじに感じられるだろう。 最悪、終盤まで飛ばしてしまってもいい。

秋庭一家(背後は誠心会)対 志村(背後は宇田川組)の代理戦争。例によって中盤までは。飛ばす人のために、上記あらすじの続き:殴り込みに至るまでの経緯を簡単に記すと、以下の通りになる。

幹部の誘拐という宇田川組の悪どい手口。しかし、秋庭一家の手塚と、志村組の吉永(佐藤允)は、幼馴染の縁もあって、お互いに挑発に乗らないようにしよう、と約束する。
業を煮やした誠心会の星野(内田良平)は、秋庭一家の組長を刺殺。そこにいた秋庭一家のチンピラ:田村(沖雅也)に、やったのは志村組だと証言するように脅迫する。

親父の玉命は取られても、尚も波風立てないようにする秋庭一家と志村組。吉永は「しらみつぶしに調べたがうちはやってねえ」と言うと、手塚は、それを信る。

しかたなく誠心会の星野は、志村組のバックについている宇田川組のお目付け役を、田村に刺させることにする。これは秋庭一家から宇田川組、さらには志村組への宣戦布告のようなものだから、当然、大騒ぎ。
それでも志村組は、宇田川組に同調しないことを決意する。

これで背後は安心と、手塚率いる秋庭一家は、攻め込まれる前に、と宇田川組の出先事務所を襲撃を企む。しかし、その間に、誠心会は志村組を襲撃。手塚が慌てて駆けつけると志村組は壊滅していた。
翌日、宇田川組が東京からの本隊を送ってくる、という噂を聞いた手塚は、誠心会の出先事務所に応援を頼みに行くが、事務所はもぬけのから。
実は、誠心会と宇田川組は手打をしていたのだった。それも、誠心会の手で秋庭一家を壊滅させるという条件で。
それを知らない馬場は東京の誠心会本部に向かう。しかし、相手にもされず、さらには人質になっていた組長の娘婿まで自殺に見せかけて殺されている始末。

町に戻った馬場は、田村の告白で全てを知る。

ここからが本番。殴り込みから一気に情念過多の世界へ突入するのだ。
「真夜中のカーボーイ」の影響がある、と言われれば、なるほど、膝を打つ人がいるかもしれない。


さむい。 さむい。 さむいんだ。


宍戸錠(手塚)、佐藤允(吉永)、錠の子分の藤竜也(小沢)、そして沖雅也(田村)は、誠心会の出先事務所に乗り込む。もちろん狙うは憎き星野(内田良平)の首。佐藤允と沖雅也を失ったものの、見事、内田を倒すことには成功。
だが敵は残っている。東京にいる誠心会の会長の首、こいつがラスボス。

ふたりは、東京へクルマで移動する。互いの体は傷だらけ、ゆらゆら揺れている。車内で、弟分・藤竜也は、兄貴分である宍戸錠と言葉を交わす。

「兄貴、寒くないっすか」
「寒い」

やや間があって、藤竜也はひとりごとのように、つぶやく。

俺は、どこかあったけえところが、昔から欲しかった。

藤竜也はコートの襟を寄せて、激しく寒がる。右手で押さえた腹部の銃槍から、血が流れ続ける。


二人は、会長の家に到着する。すぐには動かない。 少し休んで体力を回復させてから、のそりと、動き出す。
エレベーターで階上へ向かう。まるで棺桶のように無機質な空間。そこで二人はドスを改めて取り出す。

二人は、見張りを倒して、(死体を便所に隠して)会長の帰宅を待つ。
ここからのシーンは、本作最大の名場面。壁に並んで座っている二人。カメラは淡々とそれを捉える。ときおり、わざとフィルムを切って、つながりを悪くすることで、時間の経過を表す。それをカメラは映し続ける。
コートを羽織った藤竜也は衰弱し、ずるずると、崩れていく。

息も絶え絶えの中、宍戸錠に藤竜也は言う。

寒くねえすか。

黙って、ウィスキーの瓶を渡す宍戸錠。自身は焼酎をラッパ飲み。
酒。それしか、いま息絶え絶えの弟分に、兄貴分がやってやれることはない。

眠るまい、眠れば死んでしまうと、座り直しては、互いに声を掛け合うふたり。
二人が思い出すのは、一緒に過ごした、幸せだった時のこと。
おそらくそれは、出所を祝って兄貴分と弟分が横に並んで、酒を飲んだ時のこと。出所祝いのシーンとこの長い待ち時間のシーンの構図は、見事に対になっているのだ。

弟分は

死んでも死に切れません。

とやる気である。 
だが、やがて。

小峰、帰ってくるんでしょうね。

そう言った弟分は、最後、小さい声で

寒いっすね。

と、ひとりごとのように呟いて、死んでいく。

宍戸ひとりの沈黙の時間が続く。弟分のため、彼は哀悼の酒を涙と共に、飲む。さらに待つことしばし、ようやく帰って来た誠心会会長を宍戸錠は見事、殺すことに成功する。

祭壇の前で刺す構図が、見事な様式美となっている。


鏑木のよみがえった哀愁漂うメロディーの中、二人を乗せてフラフラ走っていたクルマは、やがて中央分離帯に激突する。
早朝の街にクラクションが鳴り響く中、宍戸錠が藤竜也の肩を抱く、
そして、満足したように眠る:がっくり首をおとすカットで、物語は見事な「完」を迎えるのだ。


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