焚火と地図とクリーチャーと。恐怖と黄昏を駆けるSLG "Overland"
アメリカ大陸横断という神話。
コンピュータゲーム草創期に開発され、アメリカの西部開拓時代を舞台にした「オレゴン・トレイル」は、馬車によるアメリカの中西部からオレゴン州ポートランドへの移民旅団の苦労が偲ばれるゲームであった。
Ubisoft+開発、現代を舞台にしたレースゲーム「ザ クルー」では、車とバイク、ボート、飛行機でのモータースポーツを駆使した華やかなりしレースゲームとして描かれた。
同じくクルマで移動しつつも、終末の世界を舞台とするOverlandは、北米を横断する生存者の健康状態や体力を管理しながら、医薬品、銃などの必需品を所々で調達しつつ、様々な困難や出来事に対処することを強いられる、いわば近未来版「オレゴン・トレイル」。
限られた資材や行動力をやりくりし生き延びることを迫られる過酷な戦闘マップと、穏やかすぎる幕間の対比が、妙に心に残って堪らないゲームだ。
幕間:焚き火を囲む仲間たち。
本作では、導く生存者のパーティを人間最大二名+犬最大2匹まで組むことができる。組み合わせは様々で、何なら目下の主人公が交代したって問題ない。
ステージとステージとを挟む幕間の焚き火を囲んでの会話が、絶えず緊張を強いられる彼らの凍てついた感情を掘り起こす。それがよい。
ここまでのスクショからなんとなく察せられると思うが、本作、大陸横断の移動手段として、アイテムの倉庫として、クルマが不可欠。失ったら這ってでも次のクルマを探す他ない。しかし、このクルマ、クリーチャーの攻撃を数回受ければ爆散するし、カツカツの燃料が尽きても動かなくなる…捨てざるを得なくなる、心持たなさ。クリーチャーを轢くなど、クルマの方がダメージを受けかねない、もってのほかの運用法。
それでも焚き火を囲むパーティにとっては、唯一の頼りなのだ。
他方で戦闘は。
バランスは投げ捨てるものである、と言わんばかりに不安定そのものだ。未完成、クソゲと言われてもしようがないハードコアぶり。
不思議のダンジョンでいうモンスターハウスが毎ステージ展開されると覚悟した方が良い。
多数のクリーチャーとちょっぴりのアイテムが出現するステージ。常に発狂状態のモンスターを一斉に相手にしなければいけないし、たとえ倒したとしても、アイテムと経験値を大量獲得でき…るはずがない。
最低限車を動かす燃料、可能なら道中役立つアイテムを拾うだけ拾って、次のステージに進め。逃げろ。夜のステージはさらに危ないから、取るもの取らずに、逃げろ。
変わり果てた世界に、文明の入り込む余地はない。招かれざる土地に招かれた人間の無力が、ひしひしと伝わってくる。
破壊し尽くされたハイウェイ、打ち捨てられたガソリンスタンド、スクラップがならぶ国道、と。序盤のステージのポストアポカリプスな雰囲気は素晴らしい…
と言っていられるのも序盤まで。
中盤からは、そんなことは言ってられないほど、化学反応で変わり果てたおぞましい世界が、牙を剥く。言わばstalkerの世界。そこらを我が物顔で歩くエイリアンの造形は…見返したくも無い、世界を侵す存在、そのもの。
味方が一動けば敵が三動く。倒しても無限に湧く。どう対処せよと?
答えは簡単。極力敵に触れないこと、動かさないこと。クルマの燃料を切らすな。クリーチャーに近付くな。大きな音が他のクリーチャーを呼び覚ますから,鉄パイプで殴るな。弾丸は補充できないから、ハジキのタマは節約しろ。ムカデになって拾ったアイテムを受け渡し、足りない行動力を少しでも稼げ。油断せず、常に警戒し、音を立てず、静かに動け。
などとセオリーをなぞっても突入した直後の状況やプレイヤーの采配が悪いと有利なアイテムを豊富にそろえていても追い詰められる。運が悪ければどうしようもない時はあるのだ。
ステージ内でガソリンが手に入らない場合が致命傷。もはや動かないクルマを失っては、這々の体で運良く次のステージに進めても、待つのは…死、あるのみだ。
以下、グロ注意。
リザルト。
熟練者だろうが一筋縄ではいかない。誰もが遊べる名作ではないが、遊べたモノじゃない駄作でもない。もっと不思議のダンジョンをさらに尖らせた風味のゲームデザイン。
尖った個性でごく一部のゲーマーを魅惑してやまないのは間違いないだろう。過酷な旅路に飢えているあなたに、アメリカ大陸を横断してみたい方に、どうぞ。
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