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"149 PCE"のナンバープレートの神話。映画"Cop Car"(2015)

スティーブン・スピルバーグというレジェンドがいる。彼の伝説は、「激突!」(原題: Duel)という1971年の神話から始まった。
リチャード・マシスンによる短編小説「Duel」を基に、くたびれたプリマス・ヴァリアントを運転する営業マンの主人公が、トラックによって執拗に追い詰められる。運転手が誰であるのか理解できないまま、そしてなぜ彼が標的にされているのかも分からないまま、緊迫感のあるカーチェイスが展開される。一方的な攻撃に遭いながらも、デヴィッドは必死に逃れようとし、しかし、逃げることをあきらめたとき、反撃の機会をうかがい、そして…。
低予算で製作されたにもかかわらず、スリリングなストーリー、巧妙な演出、ほぼ唯一といっていい役者の緊迫感ある演技によって、高い評価を受けた。スピルバーグの映画監督としての才能を証明し、その後の成功に繋がる一助となった。


さて、「激突!」のプリマス・ヴァリアント「149 PCE」のナンバープレートを付けていた。さすがのスピルバーグでも(原作未読だがマシスンでも?)、この数字には意味を持たせることができなかったが、半世紀後、この数字を引き継ぐクルマが現れる。
ケヴィン・ベーコン演じる悪徳保安官のパトカーのナンバープレートとして。

2015年に公開された『COP CAR』は、ケヴィン・ベーコン製作・主演の低予算サスペンス映画。
物語は、二人の10歳の少年が逃げた家庭から出て冒険する様子から始まる。彼らは森の中で見つけた放置されたパトカーを見つけ、「マリオカートやったことあるから、運転できるもん」と、その車のアクセルを踏んで、無邪気な冒険を始める。
しかし、実はそのパトカーは保安官の所有物であり、あるものを後方トランクに秘匿していた。保安官は彼らを追いかけはじめ、やがて、この男、非常に危険な人物であることが明らかになっていく…。

結論から言えば、
まるで人狼のように凶暴な二面性を持った保安官が、「どこにでもいる」2人の子どもを、何処までもどこまでも執念深く追い続け、圧倒的な恐怖をもたらす。恐怖とサスペンスを語るために、スジはともかく、尺の使い方がギリギリまで煮詰められている。
これ、スティーブン・キング作品でいう「身近に迫る恐怖」そのものと言って良い。
二人の子供が車を拾って乗り回す様は、「スタンド・バイ・ミー」のような楽しさに溢れているし、保安官が狂気に取り憑かれていく様は「シャイニング」さながらだ。車体を徹底的に舐め回すカメラワークには「クリスティーン」の様なフェチズムすら感じる。
低予算を逆手に取り、「人っ子一人いないアメリカの荒野」を主な舞台にしたこと、そして少人数同士の戦いを描いたことが、スティーブン・キングっぽさを際立たせている。

最初は焦り、次には苛立ち、最後には 激怒・憤怒の発作を見せる、ケヴィン・ベーコン演じる保安官から目が離せない。最初から痛みつけられた憎悪に吹っ切れているトランクの中の男=シェー・ウィガムの演技も見事。
パトカーのサイレンを狼の遠吠えに見立てたかのようなEDの音楽も、見終わった後となれば聞き応えあり。

子どもたちの冒険、大人の悪意、予測できない危険な状況に発展していくさま…『COP CAR』は、緊迫感とサスペンス、ケヴィン・ベーコンのパフォーマンスが称賛され、その独自のプロットと緊迫感が、低予算映画にもかかわらず思いがけず観客を引き込むことに成功した。
監督・脚本を務めたジョン・ワッツが、本作の手腕を買われて、トム・ホランド版「スパイダーマン」トリロジーを手掛けた伝説も…いまとなっては、有名すぎる話である。

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ドント・ウォーリー
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