“カネか。いくらあっても足りない気のする「ゴミ」そのものさ。”_”Detour”(1945)
まずはこの男の、憑かれた顔を見てほしい。
1945年のフィルム・ノワール「恐怖のまわり道」の主演を演じたトム・ニールの顔。女優をめぐって同僚を大怪我させたり、妻を射殺したり、フィルムノワールを体現するスキャンダルまみれの人生を起こした男の貌。ナヨナヨしい眉毛、しょぼくれた感じ、もちろん演技やメイクもあるのだろうけが、人生に疲れ果てた感、B級的侘びしさをかもし出している。
68分のテンポ良い短編というのも良い:気だるく疲れた悪の世界が、流れて通り過ぎていく。
話は簡単。男は女の欲望に拮抗することができず 、言われるがまま金を奪い、その金を巡って女と交渉決裂。にっちもさっちも行かないところへ追い込まれてしまう。男の顔から余裕というものが消えていく。
女は部屋に閉じこもり、男の容疑を通報しようと立て篭もる。電話をかけさせまいと、男は部屋の外から電話線をちぎろうと引っ張る:声が消える。
女は部屋の中で受話器のコードに首を絞められ、息絶えている。
そんなバカな。物的証拠が多すぎて隠滅もできない。
絶望した男は、とぼとぼ夜道を歩いて…夜のガソリンスタンド、冒頭のやさぐれた顔になってたどり着く。
そんな男の漏らすため息の一つが、これだ。
You can never have enough money. More is better.(お金はいくらあっても十分じゃないよ。多ければ多いほどいいよ。)の常套句に引っ掛けた、皮肉めいたため息。
騙された馬鹿な男のため息が、画面越しに伝わる一作。身につまされることだろう。
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