「メリー!メリー、メリー、メリー…気持ちの良い響きだ「黙れ。」」_"Logan Lucky(2017)"
ダニエル・クレイグ。
バッシング一辺倒の前評判を覆して、「007 カジノ・ロワイヤル」で最高に野性的でクールなシリアス・ボンド像を作り上げた男。筋骨隆々の肉体の肉体逞しい、金髪碧眼の、男が惚れる男。2012年夏のロンドン・オリンピックではエリザベス女王とともに開会式に登場し、世界をあっと言わせた(そして来る2020年東京五輪開会式の演出のハードルを上げた)男…。
はい!「わたしは、ダニエル・ブレイク」を007の番外編かと思っていた私が通りますよ。
実際この人の骨格や味のある貌からして、不思議と、ケン・ローチ監督の映画に出てくるような生真面目なブルーカラー、職人、手に職のプロフェッショナルの役もまた、似合うように思えて仕方ない。
そんな彼が007はおろか「ドラゴン・タトゥーの女」や「ナイブス・アウト」でも見せたスーツ姿を脱ぎ捨てて、上半身は白のシャツ一枚、ゴリゴリでマッチョな肉体美をスクリーンに見せつける凄腕の金庫破り演じた、2017年のアメリカ映画『Logan Lucky(ローガン・ラッキー)』より。
何処かコミカル本作でダニエル・クレイグは、いつもどこかで気難しい表情を緩めて、別の側面を見せてくれる。
ウェストバージニア州で暮らすジミー・ローガンという男性(チャニング・テイタム:演)が、仕事を失い、財政的な苦境に立たされる中で、犯罪計画を立てる。ジミーは、シャーロット・モーター・スピードウェイで行われる大きなNASCARレースに焦点を当て、そこで一攫千金を狙う。
ジミーは傷病兵で現在バーテンダーをしている弟クライド(アダム・ドライバー:演)や、金庫破りジョー(ダニエル・クレイグ:演)など、個性的な仲間たちと協力して計画を進るのだが…。
監督がスティーブン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)なのもあってか、それぞれ一芸に長けた連中が巨大な金庫室から大金を盗み出す、というプロットは「オーシャンズ」と同じ。
決定的に違うのは、「仲間たち全員が、一見うだつが上がらないブルーカラーに見える、でも実は他人に秀でた裏の顔を持つ」ということだ。
ジミーは司令塔を務めるには情けなく見えるし、クライドは(設定からして仕方ないのだが)ビョーキっぽい。ジョーは飢えた野獣そのものだし、ジョーの弟二人:サムとフィッシュ(ブライアン・グリーソン、ジャック・クエイド)は、よく言えば「理解しがたい倫理観に縛られていている」。悪く言えば「まったくもってズレている」。
ジョーとサム&フィッシュのやり取りは、言葉のズレを通り越して、もはや漫才すれすれ。以下、ジョーが言葉で弟二人を窘めるシーンから引用。
「要領悪い奴らだなあ」という印象が前半に植えつけられる。
それが、Charlotte Motor SpeedwayにおけるNASCARレースを巧みに利用した犯罪計画当日の段になって、徐々に彼らの一芸に秀でた様子が明かされる。スピードウェイのイベントやその裏側の様子を組み込みつつ、間隙を突いて本懐を遂げるサマが、実に痛快である。
「オーシャンズ」におけるラスベガスが、本作ではNASCARレースに当たる。一瞬の興奮に命を賭けているのは、地上のレーサーたちも、地下の金庫を狙う男たちも同じ。
上下の興奮の波長が同期して、大作戦へと雪崩れ込む。この呼吸、NASCARレースのプロモ ーションにふさわしい映画だ。
さて、本記事のタイトルは、クライドの手で刑務所を抜け出すことが出来たジョーと、メリーとが引き合わされるシーンより。
「一線を引いて」ふだんスーツを着ているときは決して見せないであろう、「妙にフランクな」人懐っこさ&フランクすぎてある種の気持ち悪さを醸して見せるダニエル・クレイグが拝めるのは、お得だったり?
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