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花に嵐の映画もあるぞ(洋画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦… もっと読む
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「私は自らの手で冠を戴くのだ。」_リドリー・スコット監督「ナポレオン」(2023)。

ナポレオン・ボナパルトの生涯をリドリー・スコットが描いた2023年の映画「ナポレオン」より。 その数期極まる生涯を1本の映画に収めるのは相当に無理がある。作劇において、リドリー・スコットは割り切った。つまりホアキン・フェニックス演じるナポレオンは、ジョーカーのような預言者すれすれの狂人としてでもなく、(同じくスコット作品たる)「グラディエーター」のコモドゥス帝のような愚王としてでもなく。平板で平凡で、そして女の愛を求める、功名心の強い成りあがり者として、おおよそ大王らしくな

印パ冷戦のスパイもの。「ミッション・マジョヌ」。

インドとパキスタンの冷戦をNETFLIX映画「ミッション・マジョヌ」。 興味ある人もない人も、まずは独立後の印パの歴史からおさらい: インディラはサッチャーに並ぶ、いやそれ以上の「鉄の女」であった。1971年の暮れ、東パキスタン(現バングラデシュ)独立を助けて、インドが隣国パキスタンとの間に第三次印パ戦争をおこすや、インディラ・ガンディーはただちに電撃作戦を展開し、わずか二週間でパキスタンを降伏に追いこんだ。それは初代首相のネルー、2代目のシャストリも、ついになしえなかっ

「自由になれ。反対者はみな斃せ。」「それじゃ奴隷主じゃないか!」_"Abraham Lincoln: Vampire Hunter"(2012)

アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンとは、偉大な人物であったことは疑いのないところ。貧困から学問によって出世し、急速に地位を固め、ついには若くして大統領に就任するという、アメリカン・ドリームを果たした人物として。奴隷制度を廃止し、結果として自由労働を牽引、自己所有権を成立させることに成功した法の擁護者として。あるいは、南北戦争の勝利の立役者:常に節制と政治における決断力とを発揮し、冷静にして沈着な方針を固守しつづけ、困難と危機の中を通じて舵を正確に取り続けたリ

「栄えある死のために。」_"Dishonored"(1931)

第一次世界大戦中の渦中を股にかけたとドイツ帝国に喧伝された、実在のスパイ:マタ・ハリをモデルに、マレーネ・ディートリッヒが美貌の女スパイを演じた、ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の1931年の映画「Dishonored」(邦題:間諜x-27)より。 1915年、オーストリア帝国の首都ウィーン。娼婦のマリーは帝国の諜報部から強制的にリクルートされ、スパイとなる訓練を受ける。戦時中ゆえ拒否権はない。勲章すがたの将校が、愛国心や自己犠牲をマリーに説く。彼女は実にどうでも良さげに

「すべての葉が抜け落ちた感じがするのだ。」_"The Father"(2020)

2020年に公開された映画「The Father(邦題:ファーザー)」は、フランスの劇作家フロリアン・ゼラーによる戯曲『Le Père(父)』を基にしたイギリス・フランスの共同製作のドラマ映画だ。 監督はゼラー自身が務め、主演はアンソニー・ホプキンスが演じた。 映画は、認知症に苦しむ老人アンソニー(演:アンソニー・ホプキンス)と、彼の娘アンの複雑な関係を中心に描かれている。アンソニーが次第に現実と錯覚を混同し、周囲の出来事が分からなくなっていく様子が描かれ、観客は彼の視点か

まだ東独があったから成り立ちえた危険な映画、いやほんと。「ローザ・ルクセンブルク」(1985年)

女傑、という言葉が似合う女性には、戦前日本なら市川房江、平塚雷鳥、与謝野晶子ら、女性の権利向上・社会進出のために尽力した政治的な人物が挙がるだろう。 戦前ドイツにも、同様の人物がいる。ローサ・ルクセンブルク。 彼女はマルクス主義者の理論家として、戦前日本においてことに知名度が高く、太宰治の「斜陽」にも、かくの一節がある。 そんな彼女の48で短く太く終わった人生を、「ハンナ・アーレント」(2012年)でやはり実在の人物を演じたバルバラ・スコヴァ(Barbara Sukowa,

死が二人を分かつまで。映画「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」

「Knockin' on Heaven's Door(ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア)」は、ボブ・ディラン(Bob Dylan)が1973年に発表した曲だ。 死後の世界を指すメタファーを含んだ歌詞は、同時に比較的シンプルで直感的であり、多くの人に深い感銘を与えた。歌詞には個人的な喪失や絶望感が反映されており、何か終わりに近づいている感覚が表現されている。また、死や死後の世界についてのテーマも含まれている。 本曲が西部劇映画『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』に対する楽曲とし

「カトリックが絶滅するまで、アイルランドに平和はない!」_"CROMWELL"(1970)

オリバー・クロムウェルは17世紀のイギリスの政治家および軍人で、イングランド共和国の指導者。その名声は、19世紀、かのゲーテと友誼を結んだ歴史学者ロバート・カーライルの伝記によって世界中に知られ、日本でも内村鑑三が、聖書と並んで自身の影響を受けた書籍として挙げていて、じじつ内村自身が と熱弁ふるって讃えた、議会制民主主義の発展に寄与した人物、表向き清廉潔白の英雄。 他方で、権力を握った後は、反対派や煩い連中を容赦なく弾圧する独裁者へと変貌。グローブ座ほか多くの劇場を閉鎖に追

「あなたは神を信じますか?」と路上で問う人に突き出してみよう「レフト・ビハインド」。

10年代のニコラス・ケイジはキャリアのどん底だった。製作総指揮まで務めたディズニー映画「魔法使いの弟子」が全世界でこけたのが良くなかった。 そんな彼が2014年に主演した最底辺の主演作と言ってもよい「Left Behind」(邦題:レフト・ビハインド)より。 一言でいえば、キリストの再臨が起こり、信者が天に昇る中で、非信者は地上に残されるという終末予言が実現した世界で:生き残った人々が混乱と困難に立ち向かう様子が描かれる、というもの。「終末予言や信仰に関するテーマを継続的に掘

「俺みたいな救えねえ奴と会ったことが一生の不幸さ、ざまあみろ。」"Nightcrawler"

上映当時であれば生配信主あるいはパパラッチという生易しい言葉。いまでいえば暴露系youtuberまたは炎上系youtuberという厳しい言葉で断罪されるであろう、少なくとも子供の憧れの職業にはなりえない「お仕事」を追体験できる2014年に公開されたアメリカのサスペンス・スリラー映画『Nightcrawler』(邦題:ナイトクローラー)より。 物語は、ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)という男が、食い詰めた挙句ふとしたきっかけから、ロサンゼルスで不法なニュース映像を撮

「猫が好きだ。そしてネコが嫌いな人間が大嫌いだ。」_"North Sea Hijack"(1981)

以上の逸話、本当だったかはともかくとして、みごとに三代目ボンドを演じて見せたロジャー・ムーア。 フラレてもフラレてもめげずに、粘りで女をゲットする男。取りあえず一発試せるかどうか?まずは単刀直入に切り込む男。断られても怒らない男。そして何より、女のピンチには必ずそばにいるダンディな男(期待通り向こうから飛び込んできてくれる男…)近づいてくる女性は敵だろうが味方だろうが、まずは信じる、優しさに溢れた男…。 女たらしでユーモラスなスパイ=ジェームズ・ボンドという前時代のイメージは

デンゼル・ワシントン、英雄失格。映画「フライト」。

つい最近、主演を務める「イコライザー」最終作が公開されたばかりのデンゼル・ワシントンが、2012年にロバート・ゼメキスと組んだ映画『Flight』(邦題: フライト)より。 ウィップ・ウィトカー(演: デンゼル・ワシントン)という有能な航空機のパイロットは、自身が機長を務める旅客機の故障に見舞われ、彼自身の卓越した操縦技術によって多くの乗客を救助する場面から、物語は始まる。 彼の英雄的な行動により、多くの人命が救われた一方で、事故原因の調査が進む中でウィップの人生には問題が

"149 PCE"のナンバープレートの神話。映画"Cop Car"(2015)

スティーブン・スピルバーグというレジェンドがいる。彼の伝説は、「激突!」(原題: Duel)という1971年の神話から始まった。 リチャード・マシスンによる短編小説「Duel」を基に、くたびれたプリマス・ヴァリアントを運転する営業マンの主人公が、トラックによって執拗に追い詰められる。運転手が誰であるのか理解できないまま、そしてなぜ彼が標的にされているのかも分からないまま、緊迫感のあるカーチェイスが展開される。一方的な攻撃に遭いながらも、デヴィッドは必死に逃れようとし、しかし、

どこを見てるの?ジョニー・デップ。ポランスキー監督「ナインスゲート」。

いまや絶賛お騒がせ男優と化したジョニー・デップが文句なくカッコよかった、日本人の憧れだったころの映画、1999年に公開されたロマン・ポランスキー監督『The Ninth Gate』(邦題: ナインス・ゲート)より。 古書収集家であるディーン・コルソ(演: ジョニー・デップ)は、、特に悪魔主義に焦点を当てた古書に興味を持っている。ある富豪から依頼を受け、彼はアリストデス・デ・スパノスの著書「The Nine Gates of the Kingdom of Shadows」の真