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順番

 徒歩10分、いつものスーパーへ買い出しに行った。
冷蔵庫には、枝豆ご飯一食分と里芋の煮っころがし、海苔の佃煮とたくあんがあるだけだった。

 今日の泊まりは食通ヘルパーのHくん。
ちょっと残念なことに、彼がシフトしている日曜日、水曜日、金曜日以外のヘルパーさんはほとんど「食」に興味をもっていない。
だから、ぼくは「旨さ」への共感をあきらめて、身内(ヘルパー派遣事業所)のオフレコぎりぎりの話題で相手をくすぐってみたり、世の中の矛盾に分け入ったり、黙々と淋しさもいっしょに噛みしめたりしながら、とにかく30分あまりの時間を過ごしている。

 仕方がないこととはいえ、食事の団らんが話すときには相手にそっぽを向き、咳きこみそうになったら「タオル!」と叫んで口をふさいでもらい、充ち足りたひとときからはかけ離れたただの生きるための「日課」になってしまったような気がする。

 見栄をはっているわけではない。
けれど、Hくんと過ごす夜の食事は、テーブル代わりの衣装ケースの上だけでも充実させておきたい。
こうした裏事情があってのスーパーへの買い出しだった。

 さらに、大事な裏事情を書き足すと、Hくんにはお任せしたいことがたくさんある。
台所やトイレの片づけ。
どうしても男性ヘルパーさんが中心だから、あちらこちらの片づけが雑になりやすい。
ぼく自身というよりも、細かいところにも目が届く彼が納得するまでキレイにしてほしい。そうすることで、彼のストレスもたまらなくてすむ。
 清拭(身体を拭くこと)。
これも台所やトイレの片づけと同じ。
手の先から足の先まで、石鹸をつかってキレイに拭いてもらう。
他の人だとわきの下やひざの裏や足の指の間など、すみずみまで行き届くことが難しいし、すごく繊細なところまで書くと、触れられることがぼくにとってはストレスになる部分もあって(車いすからベッドへの旅、「身構える」参照)、誰にでもお願いしたくはない。
裏返せば、それぞれに、その人にお願いしたいことがある。
 ほかにも、欠かしてはならないストレッチなどもあって、おかずづくりを頼めば夜明けに眠りにつくことになってしまう。
それだけは避けたい。

 ということで、昼食のおかずと夕食のご飯ものとおかずをそろえた。
購入したもの。
焼き鳥(ぼんじり2本、皮2本)、茶碗蒸し、白和え、サーロイン重。
夕食にサーロイン重と里芋の煮っころがし、焼き鳥のぼんじりと皮を1本ずつ。
昼食に枝豆ご飯と茶碗蒸しなどという目算を立てていた。

 ところが、いざ昼食になると腹が減ってたまらなくなった。
さすがに、朝の菓子パン1個ではもつはずがなかった。
さっそく、予定変更。
昼食にサーロイン重、白和え、茶碗蒸し、焼き鳥(ぼんじり2本)となった。
スーパーでそろえたのに、千円札が飛んでいく結果になってしまった。

 昼食と夕食のメニューが代わったぐらい、どうでもいいことかもしれない。
 でも、これだけどうでもいいことを書くのは、ぼくにとってはある種の快感につながる。

 これからも、どうでもいいことばかり書きつづけられる世の中であってほしい。
 心のどこかで意地を張ってでも、毎日の生活のどうでもいいことを書きつづけたい。

 

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