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まわりこむ

 顔は面長だった。
眼は切れ長だった。
大切な一球のようだった。
白い帽子のイニシャルは確かめられなかったけれど、エビ茶色だった。
ずいぶん使い古していて、浅く深くシワが入り、要するにくたびれていた。
胸もとは、校名のアルファベットが読めないぐらいに汚れていた。

 歓声は聞こえなかった。
逆に、静まり返っているように思えた。
ザザザザザとボールが勢いよく転がる音がして、ぼくの視野の至近距離で腰を落として構えていた彼は、その一球の意味を全身に感じながら、慎重にまわりこんで正面でグラブを地面につけた。

 グラブにおさまるまでボールを追いつづけているはずの視線には、適度に観客の入ったスタンドとその向こうの白い高層ビルと青空がごった返して揺れていた。
第三者であろうぼくは、彼がうまく捕球できないと思いこんだ。

 夕食後の安定剤がよく効いて、ぼくは居眠りをしていたのだった。
ラジコのタイムフリーで、デイゲームを聴いている隙間の夢だtのた。
試合がリアルタイムで進んでいるときは、オンラインの研修が行われていて、社会の「働く」枠組みからはじき出された障害者に想いを馳せていた。
主催者側だったので、閉会のあいさつの役目がまわってきて、伝えたいことの三割ぐらいしか言葉にできなかった。

 ややこしい夢だった。
大事な一球の行方を握るグラウンドの上の当事者だったり、見守る第三者だったり、夕食を味わいながら聴いていたラジコのタイムフリーの野球中継の影響だったとはいえ、はっきりしない立場の夢だった。

 ところで、試合の結果を聴き終わらないままに、夢の原稿を書きはじめた。
目が覚めて、一瞬のスコアは七回ウラで一点差だった。
ひいきのチームが勝っていた。

 さっさと、タイムフリーに戻ることにしよう。
ぼくには困ったルーティーンがあって、書くときは唄を聴きながらでないと何も進まない。一文字も進まない。
 
 それでは、なんの深掘りも、オチもなく、淡々とカーソルを止める。

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