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車いすからベッドへの旅

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毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考…
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2021年8月の記事一覧

伝道

 加川良さんには、「伝道」というぼくにとっての名曲がある。  途中からこどもたちのバック…

船出

 Mさんが泣きはじめると、いくらオーディオのボリュームを上げてもなにも聴こえなかった。 そ…

あこがれ

 午前二時過ぎだった。ぼくは眠れないことに焦っていた。  今日の午後からは会議があって、…

ボケたぼくへの贈りもの

 ぼくがまだ家族といっしょに暮らしていたころ(八歳まで)、おふくろに対して「どんな頭の構…

タマゴで産む

 朝一番から、わが家はマスク越しの大爆笑がひろがった。  今日の起きる準備のヘルパーさん…

マイスタイル

 朝から青空だったので、ツーカーの仲の青年ヘルパーのMくんと夕ごはんの一品を買い出しに、…

介護という「仕事」に寄り添う哲学

  ある失敗  ぼくには尊敬する友人が三人いる。  中でも、京都の施設にお世話になっていたころの入居者の生活相談の担当だったMさんは、ぼくの生涯のいちばんの恩人に違いない。 (車いすからベッドへの旅、「ひとりの時間①」参照)  実は、タイトルを考えていて、彼女のことを指して「天使の○○」とか、「菩薩の○○」などが浮かんだけれど、それよりも人間味の深い情けと艶で満たされた人だった。  彼女が介護する一つひとつの動きを眺めているだけで、日常の些細な苛立ちや憤りが静まっていくようだ

帰り道

 ぼくは東京が好きだった。 大阪へ出てきて間もないころ、学生バイトでぼくの夜間の暮らしを…

雨上がりの午後

  昨日、リハビリの先生から課題にされている一時間~二時間の「車いすに乗ること」のために…

足を使う

 コーチは、どんなときでも体幹がブレない。わが家へヘルパーとして来てから、一貫して体幹が…

残念なデキゴト

 週に二日しかない訪問入浴がスタッフの体調不良で、一日だけになった。 さすがにこの蒸し暑…

心地よい場所

 このところ、一歩ふみこんで自分の本音を投稿するようになって、季節に言いかえれば青葉若葉…

自己決定について

 人前でヘルパーさんをひどく怒鳴ってしまったことがあった。 乗り換え駅でのこと。  エレベ…

それぞれの価値観を認めあう自由

 大都会のターミナル駅から三十分ほど電車にゆられて、やや遠くに碧さをたたえた峰の連なりの見える地方都市の駅に降り立ったのは、ある集会の開始時間をわずかに過ぎた午後だった。    電車のドアが開くと、子どものころにラジオのなつメロ番組でよく耳にしたしんみりとする決して勇ましくはない軍歌などと、男のガナリ声が幾重にも混線しながら大音量で聞こえてきた。 ガイドヘルパーのアンジェラ・アキ似の彼とホームへ降り立つと、その音量はみぞおちに力をこめて話さなければ聴き取れないほどだった。