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令和5年の難民認定率は?

3月26日に、入管庁が「令和5年における難民認定者数等について」という報道発表資料を公開しました。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001414756.pdf

出入国在留管理庁ホームページより

この資料にある数字を「令和4年における難民認定者数等について」と比べて簡単に分析した上で、私見を述べたいと思います。
令和4年のリンクも載せておきます。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001393012.pdf

出入国在留管理庁ホームページより

私なりに数字を拾って比較してみます。

難民申請者の数

昨年に比べて、難民申請者の数がとんでもなく増えていることがわかると思います。これは昨年までが少なすぎると解釈するのが適当でして、コロナで入国制限を行ったことが原因ですね。
難民申請者数のピークは平成29年で、その時は2万人ほどでした。
入管庁はこの時に就労や在留の制限を強化することで申請者の数を強引に翌年1万人程度に抑え込んだのですが、現状そこから3000人以上増えた形です。
難民申請者の内訳については以下のように説明されています。

イ 難民認定申請者の国籍は87か国にわたり、主な国籍は、スリランカ、トルコ、 パキスタン、インド、カンボジアとなっています。これら上位5か国からの申請者 数は、申請者総数の約66%を占めており、申請者の多くが特定の国籍に集中して います。

なお、令和5年6月に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公表した「グ ローバルトレンズ2022」において世界で難民認定申請者を多く出しているとされる上位5か国からの申請者数は271人(内訳:ベネズエラ2人、キューバ1人、 アフガニスタン259人、ニカラグア0人、ウクライナ9人)となっています。

申請者が特定の国に集中していること、それが世界の潮流とギャップがあると感じさせられるわけですが、そうではありません。
UNHCRのグローバルトレンズでは「asylum seeker」という言葉で説明されているものを「難民申請者」と翻訳しているわけですが、難民に関する世界の潮流を表す数字ではありません。
第一に、難民申請者となるには難民条約の締約国へ逃げる必要があります。
例えばミャンマーのロヒンギャの人々の多くは隣国バングラデッシュへ逃れるわけですがバングラデッシュは難民条約の締約国ではありません。
また、アフリカなどでは集団認定という方法が多く採用されています。これは一人一人についてじっくり判断するのではなく、「こういう民族の人はもう難民だよね」というおおまかな線を引いて認定してしまう方法のようです。このような形で難民となる人たちは「難民申請者」という過程をすっ飛ばして「難民」となるわけですから、難民申請者としてカウントされません。
逆に、ヨーロッパやアメリカは日本と同じ個別認定という方法ですから、「難民申請者」としてほぼ必ずカウントされます。上記引用部分の後段で「難民申請者を多く出しているとされる上位5ヵ国」の地理を考えてみてください。ベネズエラ、キューバ、ニカラグアはアメリカに近く、ウクライナはヨーロッパに近いのがお分かりいただけると思います。アフガニスタンは最近までアメリカ軍がいたわけですから、その繋がりを頼って難民申請していると考えるのが妥当でしょう。
そう考えると日本への難民申請者はそれなりに日本に近く、かつ政情不安をかかえる国々です。「難民申請者を多く出しているとされる上位5か国からの申請者数」とギャップがあっても何ら不思議はありません。

複数回申請者の数は昨年に比べて少し増えています。大変残念なことですが、今の世界情勢を考えれば、申請者数はどう足掻いても毎年膨らんでいくと思います。

審査請求とは、難民申請をして、それが不許可になったときにもう一度審査してもらえる制度です。このとき審査するのは難民調査官ではなく、難民審査参与員と呼ばれる外部の有識者です。
審査請求数も800人弱増えていますが、難民申請者と比べると増え方は大きくありません。コロナ開けの影響が出るのは来年以降でしょうか。

難民申請取り下げについて

小数点第3位以下は切り捨て

入管の出した数字に加えて、難民認定率などを計算してまとめてみました。
一次審査というのは難民調査官による認定手続で、2次審査というのは一次審査が不服だった場合の審査請求による認定手続です。

ちょっと気になるのは申請取り下げの数です。今回の発表の中でも取り上げられています。

(ウ) 申請を取り下げた者等の数は、前年に比べて1,218人(約75%)増加 しました。主な国籍は、1トルコ494人、2スリランカ313人、3インド 304人、4パキスタン301人、5カンボジア261人、6バングラデシュ 260人、7ウズベキスタン177人、8中国136人、9ネパール82人、 10カザフスタン64人となっています。なお、申請を取り下げた者の約63% が本邦を出国し、約11%が本邦に不法に滞在し続けています(令和6年2月 1日時点)。

1次審査で取り下げた人等への言及

(ア) 審査請求の処理数は3,459人であり、前年に比べて1,773人(約34%)減少しました。 その内訳は、審査請求に「理由あり」とされた者(難民認定者)14人、「理由なし」とされた者(難民不認定者)2,582人、審査請求を取り下げた者等 863人となっています。このうち、審査請求を取り下げた者等の数は、処理数 の約25%を占めています。

2次審査で取り下げた人等への言及


コロナを理由とするの規制が緩和されて申請者数が増えたことを考えても、ちょっと多いような気がします。
説明としては、3つの仮説が成り立つと思います。

①取り下げの人の多くは就労目的の嘘の申請で、そういう人が増えた
一応仮説としては成り立ちますが、ナンセンスです。この仮説を事実と主張したいのならば、例年に比べて嘘をつく人が増えた原因を説明する必要があります。

②認定・不認定の判断までの期間と、申請者自身による取り下げの決定までの期間のズレ
難民申請の平均処理期間は26.6ヶ月と発表されています。
申請して結果が出るまで、だいたい2年強かかることになります。
そうなると、認定・不認定の判断がされた難民申請者は基本的にコロナ下かその前に入国した人であるのに対し、取り下げた人の中にはコロナを理由とした入国規制を政府が緩和した後に入国した人も多く含まれるのです。
つまり、認定・不認定の判断がされた難民申請者はコロナ禍で入国者自体が少ないなかでの数字であるのに対して、取り下げた申請者は入国者が多くなった状況での数字なのです。申請から結果が出るまの期間にズレがあるので、前年比で取り下げ数が一気に上昇したように見えるのです。
これがまあ妥当な見立てだと思っています。
その証拠に、コロナ前である令和元年の一次審査の取り下げ件数は2152人で、2次審査の取り下げ件数は2269人でした。(https://www.moj.go.jp/isa/content/930005069.pdf

③入管が取り下げキャンペーンを行っている
これはかなり、穿ちすぎた仮説かなと思います。。
他の在留資格を与えることをチラつかせる(実際に与える)、難民申請は通りっこないと諭すなどして、難民申請を取り下げるよう入管側から働きかけを行なってやしないかと心配しています。杞憂であるといいのですが。
難民認定率の計算式は(認定者+不認定者)÷認定者です。
つまり、途中で取り下げられた申請は「不認定」とはカウントされず分母に含まれないのです。難民認定率は入管自身では発表していないものの、計算すればすぐに数字が出ますし、メディアではそれなりに取り上げられます。
難民認定率を小さくしないために、どんどん取り下げてもらおうと入管が考えたとしても不思議はありあせん。
また、難民申請の平均処理期間の数字をなるべく小さくするためにも取り下げが多い方が良いのです。「難民の認定・不認定の判断」も「難民申請の取り下げ」も「難民申請の処理」としてカウントされますから、取り下げが多いほど処理期間が短くなるのです。
難民申請の平均処理期間を短く見せるために、どんどん取り下げ数をカウントしたと考えることも出来なくはありません。
本当は、申請から難民該当性の判断の平均期間と、申請から取り下げまでの平均期間は分けて集計をしてもらいたかったですね。

2次審査の処理数の激減

もう1点だけ。2次審査、つまり難民参与員による審査の処理数が激減していることも指摘しておきたいと思います。
5232人から3459人に、1773人も減っていまして約34%減です。
これは昨年、入管法改正案の議論の時に1人でありえない数の審査をしている参与員が指摘されたことが原因ではないかとニラんでいます。
詳しくはこの記事に書かれています。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/253697

これを受けて、1人に何千件も審査してもらうのを辞めた結果、処理数がグッと減ったのではないでしょうか。

難民認定率は?

難民認定率は3.79%で、過去最高です。認定数も全部で303人、過去最多です。主にアフガニスタンやミャンマーからの難民を受け入れた結果ですね。0.3%だった令和3年から考えると飛躍的な進歩……かもしれません。
ただし、G7各国を比較すると、圧倒的に少ない。20%くらいの認定率でもおかしくないはずなのです。
0.3から3.8の変化なんて、アメーバがミジンコになったようなもんです。
本当にこんなに少なかったのでしょうか。

難民認定手続についてもっと深く知りたいという方は別途記事を書いていますので是非読んでみてください。
今日取り上げた論点もいくつか詳しく解説していますので、是非。
結構な分量が無料で読めますが、一応100円の有料記事です。


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