見出し画像

読書241102「肥料争奪戦の時代」

この本は、本当に目から鱗の連続でした・・・。

リンというのは特別な元素で、人間や動植物に不可欠で、さらに低温で発火し燃えると高温になる危険な物質だそうです。第2次世界大戦の終盤、ハンブルグでイギリス軍はこのリンをつかった爆撃を行い、通常の爆弾を超える凄まじい破壊力だったそうです。

次に時代は遡って、ワーテルローの戦いでは5万人近くの死者がでたのに、のちに遺体(遺骨)が発見されなかった、というエピソード。戦争のあと、略奪が起こるのは世の常ですが、どうやら死体を肥料として使われたのではと著者は書いています。人間の排泄物だけではなく、人間そのものにリンが含まれるからです。

時代がかわって1950年代のアメリカで、少年が川に落ちて行方不明になったのですが、捜索を手こずらしたのが川に密集する藻でした。アメリカではその頃河川や湖に大量に発生する藻が生態系を壊していました。その藻が急成長するほど食料としていいたのは、洗濯洗剤からでる「りん」でした。さまざまな調査を経てそれが特定され、メーカーはリンを含まない洗剤を開発し、それでも汚れが落ちると説明したのですが、消費者はCMから刷り込まれた泡がたくさんでる洗剤を好んで買うことをやめなかったそうです。

そして現代。先のワーテルローのエピソードのように、りんを使った肥料は農作物では必須です。米国では肥料がどんどん使われるようになり、これらが雨と共に土壌から河川にながれ、藻を育て、水中の生態系を壊すようになりました。著者はエタノール燃料についても問題点を指摘しています。米国で育てられら流穀物の40%とかが、燃料になっている、このような過剰な穀物がリンの使用をさらに押し上げるからです。

最後に引用したのはロンドンのケースで、昔ロンドンの人口が急上昇するなか、排泄物の処理ができず市内は大変なことになったそうです。我慢できなくなった市は下水を完備させ排泄物はテムズから海へ流し出されるようになり、ロンドンは綺麗になったが、海にはリンが流し出された・・・というエピソードを紹介しています。それはある意味自然のサイクルなのかもしれません。しかしバランスを崩すと生態系のリスクになるのは、二酸化炭素だけではないのだと思いました。非常に勉強になる一冊でした。

いいなと思ったら応援しよう!