夏休みに見たもの

だらだら夏を過ごしていたら映画やアニメに対する感想がたまってきたので、ここにまとめてしまいたいと思います。直接的な言及は避けますが、レビューではなく自分用の感想なので、軽いネタバレはあります。

・映画

プリディスティネーション

決定論から逃れることのできないある男の哀愁を描いたタイムトラベルSF。前半に散らばっている一見無意味なシーンが、映画の後半で伏線へと化けるのが本当に面白い。大学の構内での邂逅のシーンがグッときた 。
ただ難点をつけるとすれば、ひとつのアイディアに固執するあまり脚本に少し無理があること。面白いので目をつぶりますが。

透明人間

透明人間を従来のようなSF的な悲劇ではなく、サスペンスとして書き直そうという大胆な試みで面白かった。
前半の孤立していく主人公を描くサイコホラー的なパートと、後半の姿を現した透明人間との戦闘を描くアクションパートが、非常に良いバランスで配置されていて見やすい。
不自然に開けた空間を切り取って『見えない何か』の霊圧を感じさせる描写は日本のホラーに近いテイストを感じた。

ゴーンガール

2年前に一度視聴したので2回目の視聴。
いま一度見直して確信したのは、社会の最小単位は家族であり、家族の最小単位は夫婦であるということ。そして、夫婦について真剣に描いた映画はマジで面白いということです。
直前に見ていた透明人間も夫婦ホラーだったのでいろんな意味で対比できてよかったです。僕はゴーンガールのエンドの方が好きかな。

ヘレディタリ

ミッドサマーのアリアスター監督の過去作。
小さな効果音や小道具を駆使して、観客に全力でトラウマを植え付けようとする姿勢に感服した。
ミッドサマーと同じように、監督に描きたいものがはっきり定まっていて、恐怖の感情がダイレクトに伝わる。
個人的に、宗教と絡めた解釈よりも全部遺伝性の精神病とカルトが起こした妄想劇だと解釈した方が現実味があって怖いと思った。

オリンピック開会式の日にテレビが見れる環境になかったので適当に開いた映画がこれで、思いっきり喰らってしまった。
まず主人公の「実在感のある天才」としてのたたずまいがすごい。画面を超えてその才能の存在を感じることができる。
あと文芸という映像的快楽を引き出しずらいテーマにしっかりとアクション性のある映像を与えているのはポイント高い。
なにより「主演がアイドル」「漫画実写化」といった外枠を持っているからこそ、主人公が口にする「作品見てから文句言え」っていうセリフが超映える。いろんな意味で今見るべき先品だと思う。

T2トレインスポッティング

「トレインスポッティング」の続編。初作を見たことある人だったら見て損なし。キャスティングそのままに加齢した俳優使っていて、キャラクターの実在感がやばい。人物にかぶさる文字や建物に溶け込むフォントといった、必要最低限使われているタイポグラフィの演出が刺さった。

竜とそばかす姫

↑ここだけだったら文句ないんだよなぁ...

言いたいことが多すぎてここではまとめられないけれども、ミュージカルとしては満点、映画としては60点ぐらいの印象。インターネットを正しく描けているかどうかは微妙なところだけど、映像と音楽は最高です。中村佳穂が正当に評価される世界線いいぞもっとやれ。

↑僕の言いたいこと全部言ってたのでおすすめです

メランコリック

傑作。無理にジャンル分けすればコメディになる。
「銭湯のバイト行ったら、番頭が風呂場を殺しの場所としてヤクザに貸していた」なんていうシュールな設定には、合理性に裏打ちされたリアリズムがある。キャラクターの造形や事件に巻き込まれていく顛末もやけにリアルで、それでいて陳腐さや既視感を全く感じさせないのはすごいと思った。

ハングオーバーシリーズ

正統派バカ映画。個人的に第一作が最強だけど勢いで最後まで見ても損なし。ラスベガスという都市の虚構性と様式化されたバカの所業がなんか奇妙な共鳴を起こしている。二/三作目は一作目で掘り下げられなかったキャラクターのためのスピンオフといった感じ。人を選ぶユーモアだけどオススメ。

グリーンブック

実話をもとにしたヒューマンドラマで普通にいい映画でした。冒頭の露骨な人種差別描写がけっこう来るものがあるけど、主人公二人の友情があらゆる意味でのステレオタイプを壊していく様子は見ていて爽快だった。俳優の演奏スキルもめっちゃ高い。

シン・エヴァンゲリオン劇場版

ついていけるかどうか不安で劇場に見に行けなかったんですが、アマプラで配信解禁されたから見た。普通に泣きました。
ただ冷静になって考えてみると、旧エヴァを超えた面白いものに仕上がってるかどうかと聞かれれば、それはないでしょうと僕は答えると思う。自分含めて鑑賞者がエヴァンゲリオンに対して多くのことを抱えすぎていて、物語がたたまれたこと自体に感動を覚えているけど、それは純粋に作品に向けられた眼差しなのかはよくわからない。
一つだけ確かなのは、実験映像としてみる価値は十分にあるということ。プレヴィズ使って作られた画面の構図はすさまじかったし、後半のマイナス宇宙が絡む虚実入り乱れる映像も楽しかった。アクションシーンはハリウッドに勝ててないけど。
あとこれを機に序破Qも見直しました。僕エヴァ好きなんだな~って再確認した夏でした。

冷たい熱帯魚

8月の真夏日に見たけど、冷や汗で体感温度10℃くらい下がった気がする。音楽の使い方、カメラワーク、色調設計、どれをとっても一級品のクオリティ。なによりでんでんをはじめとした俳優陣の演技力が半端ではない。怖すぎておしっこ漏らすぜ、マジで。
よくスプラッター映画だと思われがちだが、悪趣味な露出が目的なわけではなく、あくまで主題を伝えるための手段としてそういう描写が出てくるだけだと思った。
社会性だの世間体などを抜きにした、人間が生物として生きるということについて考えさせられる凄い映画だった。

アンチポルノ

映画として普通に破綻しているので評価が難しい。あきらかに頭おかしいんだけど隠しきれない上品さとかカッコ良さがあるから難しい。いつか見返すかもしれない、でも難しい。

自殺サークル

うーん見方がわからなかった。不快感をメタ的に気持ちいものとして描こう見たいな姿勢を感じたけどあんまりハマれなかった。単純なサスペンス/サイコホラーとして消費しようにもラストが抽象的過ぎて置いてけぼりになってしまった。挿入歌がいいノスタルジーをまとってたことぐらいしか僕には言えない。

ザハント

最高!とかいうと変な目で見られそうだけど僕は楽しんで見ちゃった。
随所に散りばめられたリベラル層/保守層両方に対する皮肉とか正直笑うしかなかった。作劇もいいし主演女優の演技もよかった。悪趣味コメディなんだけど、『動物農場』を下敷きにしていたりと思想性は結構練られてる。
自分の政治的な立場は一度忘却して、極端な人間を揶揄するコメディとして見れるのではと思う。

新宿スワン

なんというか全体的に倫理観が合わなくて気持ち悪さをずっと感じてしまった。漫画の実写化としてみればある程度不快感はごまかせるけど、それでも引っかかるポイントは多かった(主人公がスカウトで女の子を幸せにする!と豪語している割には内的な葛藤の描写が足りなかったり、敵役に一度命奪われそうになってるのに殴り合えばもう友達♪とかめちゃくちゃすぎる)。
調べた感じ原作漫画の方が描写も丁寧そうだし、時間があればそっちでじっくり向き合いたいと思う。

サマーウォーズ

「竜そば」を見て、「細田守ってもっと上手にインターネット描けるだろ」と思い見返した。予感は的中しサマーウォーズ最高botになりました。
まず、OZにおけるアバター操作には肉体性がある。例の「よろしくお願いしまーーす!」のシーンしかり、機械に対する入力とモデルの動きに列記とした繋がりがあって、これが独特の緊張感を生み出している。それにOZのインターネットはちゃんと"人が使ってる感じ"がある(行政機能が部分的に吸収されてたりセキュリティな設定が緻密だったり)。
ミュージカル的な盛り上がりは少ないけど映画としてはこっちの方が好き。

孤狼の血

めちゃくちゃ面白かった。ヤクザ映画というものをあまり見たことなかったんだけど(国は違うけどゴッドファーザーぐらいしか見たことなかった)、しっかりハマることができた。
役所広司と松坂桃李演じる主人公格二人が超魅力的、特に松坂桃李の演技力は目を見張るものがあり、俳優としての株がめっちゃ上がった。
冒頭から目をそむけたくなるような痛々しい描写が続くけど、映画の根幹にある正義には共感できる部分が多く、見終わるころには静かな感動がやってくる。そうはいっても、警察にもヤクザにも絶対になりたくないと強く思った。

ゼロダークサーティ

実話が元になっている分、ドラマのような高揚感やカタルシスは感じないけれども、地に足のついた恐怖は何倍も感じる映画だった。ストーリーの根幹が国家機密に関わっている分、史実との照らし合わせは現状では不可能だけれども、限りなくこの映画に近い戦いが繰り広げられていたんだと思う。
作中で主人公が仕掛けるような情報戦は決して過去のものではなく、今でも世界中で行われていると思うと、戦争を他人事のようにとらえてはいけないと思った。

トレーニング デイ

上にあげた「孤狼の血」と比較されるような文脈で知ったので、それとの対比のような形で見た。デンゼル・ワシントン演じる悪徳警官が、愛嬌のあるクズというか、最低なのにどこまでも信じたくなるような人間で、最後まで気が抜けなかった。あと全部のプロットが1日に収まっているので、ドキュメンタリーのようなテイストがあって面白かった。

シンプル・フェイバー

ブレイク・ライブリー演じるエミリーが綺麗すぎる!!それに加えてサスペンスとしてのプロットも結構完成度が高く、純粋に楽しかった。アナ・ケンドリック演じるステファニーもどことなく信頼しきれない雰囲気が出ていて、緊張感が最後まで続いた。

そうして私たちはプールに金魚を、

長久允監督の作品をいろんな人と見る機会があって、まずは手始めにと見た短編映画。現実にある湿っぽい人間ドラマを程よいレベルで理想化していて、苦しくなりすぎず楽しくなりすぎない絶妙なバランスになっていた。ライトなんだけどけっこう深いところに刺さるので、残暑の九月の内に皆さんも見ましょう。

WE ARE LITTLE ZOMBIES

同じく長久允による長編映画。Anamanaguchiみたいなデジタルフュージョンの劇中歌が最高であり、それに8bitのルックを載せてるのでオーディオビジュアル作品として大成功しているとまずは言いたい。起用しているキャストやカメラワーク、色調など、商品としての映像のクオリティがめちゃくちゃ高く、プロデューサーすごすぎるぜ、という気持ちになった。脚本に関しても、突拍子もないように見える導入に反してキャラのバックグラウンドは丁寧に書かれていて、ぐんぐん作品世界に入りこめた。

スパイダーマン ホームカミング + スパイダーマンファーフロムホーム

なんやかんやいいつつ追ってるMCU。エンドゲーム見たのにMCUスパイダーマンに関する知識がぽっかり抜けていたので補完の目的で二つ続けて視聴。結果いい意味で裏切られる体験になった。二作ともに敵キャラが骨太で、それを通過した主人公の心理的な成長も、歴代のスパイダーマンの中でいままで一番ドラマティックになっていたと思う。高校生ピーターパーカーを柱として展開する青春映画としての完成度も非常に高かった。
次回作のノーウェイホームが楽しみ。

サムライミ版スパイダーマンシリーズ

グリーンゴブリンとかDr. オクトパスのことを何も覚えてなかったので、それを思い出すために見た。なんだけど、直前にMCU版を見ていたからシリーズに通底するテーマが逆説的に浮き彫りになって面白かった。
ピーターパーカーの人物描写はサムライミ版が一番好きかもしれない。

ドライブマイカー

有名な映画賞で脚本賞を取ったと話題になっていたので、近所の映画館に見に行った。深い喪失を味わった男が「演劇を作る」という行為を通して心を回復していく話いえばシンプルだが、その内容はこの言葉では説明できないほど深く尊い。ドキュメンタリーに近いカット割りと、日本語/英語/台湾語/韓国語などの多言語が交錯する作劇が、ほかにないテンポを作っていて心地よかった。そしてなにより、題名にも含まれる「車」の描き方が良い。役割の交代のような象徴的な意味合いも見て取れるけど、親子や恋人同士といった関係性を超えた深い愛情が、主人公とドライバーの間に芽生えていてよかった。音響も映像も芸術品級なので、映画館で見れてよかったと思う。

・アニメ

レヴュースタァライト

可愛い女の子が出てくる学園モノなのかなーと気を抜いてたら、超高速で歌劇とアニメの境目を壊し始めてびっくりした。様式化された舞台設定(物理)がそのままキャラクターの心理的な配置を示すとかいう(僕的には)未知の映像表現が出てきて、興奮しっぱなしだった。なによりすごいのは、レビューにおけるキャラは徹底的に記号化されているのに、その人間的な輝きは失われるどころかより輝きをますということ。全員魅力的で生きている感じがする。ヤバイ。
多分アニメとしての文脈も舞台歌劇としての文脈もすさまじい緻密さで作品に取り込まれていて、正直全体像が見えていない(最終話のエヴァっぽさぐらいしかわからなかった)。劇場版誰か一緒に行こう。

Serial Experiments Lain

Twitterでオタクっぽいことしてる割りにはLain見てないなと思ってみた。ホンモノのセル画と黎明期のデジタルの合わせ技的な画面が見ていて楽しかった。あと岩倉玲音のキャラデザが最高すぎる。あと50年は擦れる。
ストーリーラインに関しては多分に村上春樹の影響があると思われ、中盤過ぎたあたりで「あ、これ世界の終わりとハードボイルドワンダーランドだ」ってなった(相互参照する二つの世界、閉じられた円環の時間軸とか)。
おそらくlainの宇宙は我々の世界に開かれていて、彼女の隔絶の悲しみもどこかで報われていると思いたい。

メイドインアビス

1話でハイファンタジー路線を見せつけられて、ついていけるか不安だったけど、8話超えたあたりからはキャラの心理的なドラマにくぎ付けになっていちいち泣いてた。
物語の構造は逆ラピュタ的というか、まさしくラピュタを上下ひっくり返した感じで、特別新しいとは思わないけど、キャラクターの身長的な偏りやナナチのキャラデザから、原作者の偏執的なフェチズムを感じて楽しかった。
劇場版で本格的に描かれる悪役(?)ボンドルドも最高でした。2期たのしみ!

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