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子どもの斬新な発想力

 私は子どもが創造活動に取り組むための玩具、教具を「童具」と呼んで創作してきました。あっという間に五十年たちました。

 しかし童具だけの世界で子どもの創造活動が満たされるわけではありません。童具で遊んで芽生えた意識を系統的に発展させる場として、『創造アトリエ』も開設しました。

 東京の羽田空港近くの糀谷に私の仕事場『童具館』があります。

 その1階でアトリエ活動は行われていますが、ぜひ自分たちもアトリエを開きたいという同志たちが現れて、『和久洋三のわくわく創造アトリエ』として、全国15箇所で同じ活動が展開されています。

 このアトリエでは、例えば積木遊びの次に同じ六面体のダッボールで、家や家具やロボットをつくって遊んだり、木工所で手に入れた角材の木片でオブジェや建築物をつくったりします。

 また、大きさや材質の違ういろいろなボールで遊び込んだあとに、紙粘土に絵具を混ぜて球体をつくり、板に並べてから押しつぶし、円の色面構成を楽しんだりもします。まるい果物や野菜の絵を描くこともあります。

 こうして、ひとつの形から、いろいろな表現世界がひらけることを知って、ひとつのものには限りない可能性が秘められていることや、いつもは見過ごしているものごとの中に、いろいろな関係性があることを子どもに感じてもらいたいと思っています。

 この活動の中で、子どもたちは目を見張るような作品や遊びを創造します。どうして子どもにこんな斬新な発想力や表現力があるのだろうと子どもと接するたびに私は驚かされています。

 大人たちはこれまで、子どもにこれだけ豊かな潜在能力があることを果たして知っていたのだろうか。私自身が気づかずに過ごしてきただけなのだろうか。最近、そのことを真剣に考えています。

 アトリエには1歳半から12歳までの子どもたち百余名が通ってきます。赤ちゃんが少年少女になるまでのお付き合いです。一方で、私は美術大学や保育専門学校の教師もしていたので、青年たちとの付き合いもありました。

 童具館には20代、30代、40代、50代のスタッフが十数人います。こうしたなかで、1歳の子どもがしだいに成長して大人になっていく筋道が見えるようになってきました。

 私は数年前まで、人間は歳を重ねるごとに成長して、感性や知性が豊かになっていく生命だと信じて疑いませんでした。けれども、いまは「どうも違うな」と思いはじめています。人は大人になるにしたがって、豊かなものが少しずつ消え失せていく、そんな感じがしています。

 3歳、4歳、5歳の子どもたちのつくったものを見ると、胸がドキドキするような喜びを与えてもらえるのですが、同じ喜びを大人たちから受けることはめったにありません。子どもたちの絵と、美術大学の学生たちの作品を比べると幼児の作品のほうが、はるかに私に感動を与えてくれます。

 人間の成長・発達を考えれば、これは不自然なことです。美術大学に入学することは、当然本人もその才能が自分にあると思っているでしょうし、大学もそれを認めて入学させたわけです。それにもかかわらず、子どもたちの作品に比べると残念ながら魅力がありません。

 学生ばかりではなく、私にしても同じです。私も時に絵筆を握ります。しかし残念ながら子どもの作品には太刀打ちできません。

 比べてみると、豊かさがない、瑞々しさがない、独創性がない、ダイナミックさがない。ないないづくしです。

 このことをどう解釈すればいいのか、思案にくれた時期がありました。


和久洋三著書『子どもの目が輝くとき』より


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