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花咲かくじらは壁を越えていく

もう2ヶ月も前のことやけど、9月のあたまの話。

松本産業株式会社主催の、画家・ミヤザキケンスケさんによる石巻壁画プロジェクトを、約2週間お手伝いさせてもらった。


このプロジェクトは『大好きなミヤザキケンスケさんの絵で、石巻にもっと笑顔を増やしたい!』という松本産業社長の充代さんのアツい想いで実現した。


ミヤケンさんは、ご自身の『Over the Wall』という名の活動のもと、世界中に『Super Happy』な壁画を描いているアーティストで、

壁画制作の大きな特徴の一つが、ミヤケンさん1人で作品を描きあげるのではなく、活動先の現地の方々にも筆を握ってもらい、一緒に作品を創りあげていくところだ。

英語の教科書にも14ページにもわたって紹介されているミヤケンさん!
記事の内容も素晴らしくて、10代の時にこんな生き方に触れることができるって羨ましい。


石巻でも、2週間の間に延べ300名以上が参加し、毎日多くの方で賑わっていた。

特に土日は、お母さんに抱っこされた赤ちゃんから高齢者まで、本当に幅広い世代の方々が参加していた。

近隣の企業の方をはじめ、仕事の合間を縫って制作に加わる方が平日もたくさんいて、驚いたと共にめっちゃすてきやなあと思った。

制作初日の様子


こんなにも大きな壁に絵を描くなんて経験、なかなか無い!

こども達はもちろん、大人達も夢中になって描いていた。


こども達が笑顔で楽しそうに描くのも、
大人達が真剣な表情で集中して描くのも、
どちらもとってもすてき。

「私はいいから〜」と座ってみんなの様子を見ていた方が、しばらく経って「ちょっと、その空色の絵の具ちょうだい」と言い筆を握って描き始めた時、アートの力を感じて嬉しくなった。


みんなでおしゃべりをしながら描くのも、
シーンとした静寂の中描くのも、
どちらもとってもすてき。

絵を描きながら、初対面の方同士でも自然と会話が生まれたり、
自分自身の心の深く深くに潜り込んで内省したり。

「こんなにも静かな〇〇さん、見たことないっちゃ!」という会話が期間中何度も起こり、その度にどっと笑いが起きた。


アーティストの方が1人で描きあげた壁画ももちろん素晴らしい。

でも、みんなで描きあげたこの壁画には、
制作に関わった人たちの数えきれない思い出が詰まっている。


「この細かい花をたくさん描いている時、天国にいるお父さんの話で盛り上がったよね」

「虹を描いている時、自分の思う幸せとは何かについて語り合ったよね」

「雨が降ってきて焦ったけど、そのあとすっかり晴れて暑いくらいだったよね」

「上からスマホが落ちてきてびっくりしたよね(笑)」

この壁画を見るたび、たくさんの思い出話が語られるはず。

4歳の娘にとっても、忘れられない思い出になった!


2週間、壁画に携わって、まるで長編小説のようだなあと感じた。

この2週間にたくさんのストーリーが詰まっていて、
完成が近付くにつれて、分厚い本の残りのページ数が少なくなっていくようで、

高揚感と哀愁が混ざり、なんとも言えない気持ちになった。


まるで旅のようだなあとも感じた。

自宅から自転車で10分もかからない距離やけど、
毎日新しい出会いがあって、語り合う仲間がいて。

完成した時の、達成感や爽快感。
名残惜しくもあるけれど、それ以上に清々しく満ち足りた気持ち。
まさに、充実した旅の終わりだ。


完成後、足場の頂上から見た日本製紙の明かりと肌に感じる夜風。

自宅から自転車で10分の距離で感じたあの胸の高鳴りを、私は一生忘れない。

壁画完成数時間前


この壁画の素晴らしいところは、制作過程だけじゃない。

完成した後もずっと、
こども達は「これ、私が描いたんだよー!」と誇らしくなるだろう。

妊娠9ヶ月のお母さんは、生まれてきた子に「あなたがおなかの中にいる時に描いたのよ」と話すだろう。

おじいちゃん、おばあちゃんは、帰省してきた孫に自慢するかもしれない。


作品としても本当に素晴らしいから、制作に関わった人だけでなく、見た人にもパワーくれる。

完成披露会の時の、壁画を見つめるみんなのキラキラした顔。

「ほら!あそこ私が描いたところ!」

「あの虹のとこにいるの、〇〇さんだっちゃ!」

口々に話すみんなの言葉。

その全てが、この壁画の素晴らしさを物語っている。

完成披露会の様子


この壁画は、空飛ぶくじらの潮から花が溢れ、石巻の街を色とりどりの花が埋めていくというストーリー。

花咲かじいさんならぬ、花咲かくじら。

石巻は、歴史的にもくじらとの縁が深く、事前に行ったワークショップでも、くじらの絵を描いてほしいという声が多かったそうだ。


石巻の街が花で埋め尽くされていく様子に、2011年の春〜夏の石巻を思い出した。

震災直後は、街全体が茶色っぽく、色が無くなってしまった石巻。

でも、春になると、たんぽぽやすみれなどの花が咲き始め、夏には石巻のいろんなところでひまわりが咲き、石巻に色が戻ってきた。

花が咲くことにあんなにも感動したのは、私はあの時が初めてだ。


充代さんが言っていた。

「震災があって、今はコロナもあって、石巻がどんどん元気じゃなくなってる気がして。

ミヤケンさんの絵は、見てるだけで元気になるし、地域のみんなが一緒になって壁画を描くことで、石巻に笑顔が増えたらいいなあと思って。」


充代さんの願い通り、
壁画の制作中はたくさんの笑顔で溢れていたし、
この先もきっと、この壁画は地域の人たちに元気をくれ、石巻に笑顔が増えていく。


東日本大震災から11年。

もう11年なのか、まだ11年なのかは人によって様々だ。


「参加してくれた人の中にも、震災に対して、今の石巻に対して、いろんな感情を持っている人がいると思う。

でも、『未来のこども達にどんな絵を残したいですか?』って聞いたら、きっとみんな同じで、明るい希望の絵を残したいと思うんだよね。」

そのミヤケンさんの言葉が心に響いた。


「石巻の中にも、様々な立場の人がいると思う。

でも、立場を超えてこの壁画を一緒に描いたっていうのは大きな一歩だと思うし、ミヤケンさんだからこそ実現できた。」

その充代さんの想いに胸が熱くなった。


石巻だけじゃなく、世界中どこにでも言えることだ。

今、自分自身がどんな状況であろうとも、未来のこども達に残したいものは『希望』。

互いに違う意見を持っていたとしても、一緒に作品を創り上げ、手を取り合うきっかけになることができる。


ミヤケンさんが行っているプロジェクトの『Over the Wall』は、日本語にすると『壁を越えて』という意味だ。

『描く』とか『みんなで』とか『繋がる』という意味の英語ではなく、なんで『Over』を選んだのかミヤケンさんに聞いた。

「俺はさ、慈善活動家じゃなくて、あくまでもアーティストなんだよね。

アーティストとして作品を描いているから、『みんなで』とか『繋がる』っていうのは一番の目的ではないんだ。

作品を描くことが大前提で、その結果、みんなが笑顔になったり、元気を届けたり、繋がっていけばいいなって。」


ミヤケンさんは、期間中何度も、

「作品としてのクオリティは大事にしたい。落書きじゃダメなんだよ。

みんなが見て、『わあー!すごいねー!!』ってなるような、

こども達が『これ、俺が描いたんだぜ!』って誇れるような作品にしなきゃいけない。」

と言っていて。


たくさんの人に描いてもらえるよう下準備をし、
参加してくださったみなさんに描き方を丁寧に伝え、
一人一人の個性も大切に残しながら修正を重ね、
参加者さんがいない間に黙々と制作に取り組み、

最終的に、見た人を笑顔にし、元気にし、感動をくれる作品に仕上げる。

それは間違いなく、こども達が『これ、俺が描いたんだぜ!』って誇れる作品だ。

「石巻の新しいシンボルになりますね。」

参加者の方が言っていた。ほんと、その通りだと思う。


プロジェクト名に『Over』を選んだことについて、

「海外で壁画を描き始めた頃、現地との交渉だったり日本での準備だったり、いろんな壁にぶつかって。

一緒に動いてくれた友人が、『これは壁を越えていくプロジェクトだね』って。

それと、壁っていうのはなにかを分断するものだから、自分のアートがその壁を越えて繋がるきっかけになれば良いと思って。」


世界中に壁がある。
国境はもちろん、ひとつの同じ国の中にも。

壁のこちら側と向こう側で、
貧富の差があったり、
憎しみあっていたり、
理解しあえなかったり。

目に見えない壁もたくさんある。

身近なものでいえば、
世代の壁や性別の壁、言葉の壁、人種の壁、地域社会の壁。

挑戦しようとした時、目の前に壁が立ちはだかることもある。


でも、私たちはその壁を越えることができる。

事実、この壁画は様々な壁を越えて、
地元の方も、県外の方も、外国籍の方も、車椅子の方も、男性も女性も、
乳幼児から高齢者まで、幅広い世代の方々が、一緒に共に描き上げた作品だ。

このアートは時代すらも越えて、
きっとずっと、石巻の宝として存在し続ける。

制作チーム!
絵の中に私たちもいるよー!
左から夫、娘、私、ミヤケンさん、おさむさん、こうき、さえちゃん




石巻は、NPOや一般社団法人などの活動団体も多く、『壁画を描こう!』っていうワークショップは震災後大なり小なりあったけど、

企業がこういう大規模な壁画制作を主催するってめちゃくちゃすごいことやと思う。


松本産業のみなさんは、本業である不動産の仕事と並行して、企画・準備・運営を行っていた。
(しかも、8月決算とのことで、1年で一番忙しい時期…!)

「やりたい!」という想いを実現させた充代さんはもちろん、それを支える幸男さんや社員のみなさんには尊敬と感謝しかないです。


毎日毎日、たくさんの方が壁画の制作に参加していて、充代さんの人望の厚さを身に染みて感じました。

かっこよくて、頼もしくて、自然体でみんなを引っ張って、
いつも周りを気にかけて、実はお茶目で可愛い♡
この壁画制作を通して、より一層大好きになりました

充代さん、幸男さん、松本産業のみなさん、

すてきなプロジェクトを企画してくださり、快く迎え入れてくださり、本当にありがとうございました!

松本ご夫妻と制作チームで




ミヤケンさんは、11月6日から約1ヶ月間、パキスタンのカラチという都市で現地の方と壁画制作を行うそうだ。

コロナのせいで2年半壁画制作を行うことができなかったけど、止まっていた時間がいよいよ動き出す!

国境も人種も言葉も越えて、現地の人と一緒に1つの絵を描きあげるって、想像しただけでも感動が半端ない。
ぜひ、活動の様子をご覧ください!

ミヤケンさんのブログ


Over the Wallのホームページ


パキスタンの壁画制作は、こちらの商品を購入することで応援できます。


また、Over the Wallの年間サポーターに入会すると、こんな可愛いパスポートが届くよヾ(@^∀^@)ノ”

今まで訪れた国や、その国で描いた壁画が紹介されているほか、今後訪れる国や壁画のシールが届くらしい!

今後海外を旅する時、ミヤケンさんの壁画巡りを目的にしても楽しそう(∩ˊ꒳​ˋ∩)・*

パキスタンでの壁画制作も、素晴らしい時間になりますように!

最後まで読んでくださりありがとうございます。 ほんの少しでも、あなたの心に響いていたら嬉しいです。