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今からでも乙武洋匡を(消去法で)当選させなければいけない3つの理由

安倍晋三元首相が暗殺された翌々日に

昨日2022年7月8日に安倍晋三元首相が暗殺された。僕は政治家としての彼をまったく評価しない。むしろこの日本の凋落をもたらした戦犯の一人であると考えているし、長期安定政権にあぐらをかいて数々の不正を行いそれをもみ消してきた人物であることもほぼ間違いないだろう。しかし、それがこのような最期を迎えて良い理由には当然だがまったくならない(もっと長生きして、法の裁きを受けて欲しかったと強く思う)。彼に批判的な人々のごく一部には、いくら政治的に敵対していても、人間がこのような殺され方をしてよいわけがない、という最低限の倫理を欠いた発言が見られた。匿名のものが多く、いちいち取り上げないがそのような意味でも、この暗殺事件はこの国の民主主義や、それを支える言論空間にガタが来ていることを証明する事件になるだろう。

そして、本当にこういうことを考えるのも、書くのも嫌なのだが、この事件の影響で、明後日の参議院選挙は結果的に「弔い合戦」の様相を呈し、そしてかねてより優位だと分析されていた自民党が同情票で圧勝するだろう。しかし、本当にそれでいいのか?ということを主に自民党の、特に東京の有権者に問うのがこの文章の趣旨だ。

僕は乙武洋匡を前提として支持している、のだけど……

僕は今回の参議院選挙は乙武洋匡候補を支持している。今更ごまかしても仕方ないので正直に言う。僕は彼と友人だから当選させてあげたいとかなり強く思っている。実際に彼のスキャンダル後の雌伏のときも、僕は絶対に諦めないように言い続けてきた。だからこそ露骨な応援に見えると、あまり効果がないのではないかと考えて控えていた。

しかし選挙戦が進行すると、「これはまずい」と思うようになってきた。乙武さんが当選圏にいない……のもそうだけれど、このままだと「自民党のタレント議員+宗教、左翼×3(山添さん、僕は個人的に好きだけど……ゴメンね)」という最悪な結果になりかねない。僕は、ここ数年、基本的には選挙区の情勢を見て国民/立憲どちらかの候補に投票しているのだけれど、東京選挙区定数6に、第三極系が一人もいないのはさすがにマズいと思うのだ。

さすがに東京選挙区に「第三極」が一人もいないのはマズい

うん。言いたいことは分かる。最後の1枠に乙武さんが食い込むと落ちるのはたぶん山添さんだ。共産党そのものがアレなのはまあ、前提として山添さんよりもヤバイやつらが東京選挙区には他にわんさかいるじゃん、そいつらを落とせよ、というわけだ。その通り。よく分かる。

まず本当に落とさなきゃいけないのは、国民をバカにしているとしか思えない自民党のタレント候補×2(自民党のまともな人、たとえばAさんやTさんはマジでこのへんの人事をどう思っているんだろう)で、特に新人のあの人は完全に政治家としての適性がく・く・く・く・くえすちょん、というかまあ、どう考えても「ない」わけで、落とせるものならなんとしても落としたいのだけど難しい。本当に落としたいけれど……

あと山本太郎。僕はいち東北出身者として、彼が10年前に福島にやったことを絶対に忘れない。こういう自分たちの信じる物語のために、他人を踏みにじっていい、信じるもののために思いっきり進む快楽のためには、ファクトも公正さもどうだっていい、というタイプをのさばらせてしまったら歴史は20世紀のイデオロギーが人を狂わせて世界中のあちこちで大量死が発生していた時代に逆戻りだ。この人も本当に国会に席を置いてほしくないが、残念ながら今回は止められそうにない。

僕は「日本維新の会」を何度も批判していて(この党は下手をすると日本のトランプ現象を起こしかねない)、友人がこの政党から出馬しようとしたときには必死に止めた(そして失敗した)のだけど、れいわ新選組は誰がどう、考えても「左の維新」であり、リベラルデモクラシーを信じているなら絶対に伸ばしてはいけない。
今回の山本の国会ルールのハックによる参院選出馬は国民を本当にバカにしていると思う。あれじゃあN国と変わらないし、かつて維新の松井と吉村が同時辞任して大阪の知事と市長の椅子を交換したルールハックと同じだ。れいわの、コンプレックス層に漬け込んだ語り口、敵を貶めて仲間を気持ちよくさせて盛り上げる手法、そして選挙ルールのハック。これらはぜんぶ彼らが常に批判する「維新しぐさ」そのものだ。絶対に認めてはいけない。

と、考えたとき、もう選択肢はこれしかない。ギリギリ当選圏にいる維新の海老沢さんでいいじゃないかって?僕は絶対に維新を認めない……というと交渉にならないので別の理屈を持ち出すと、彼女はそれなりにいろいろしがらんでいると思われる維新の候補者選定の結果大阪から来た(正確には東京から大阪に行った人が戻ってきた)人だ。長年尽くしてきた人なので、ということなのじゃないかなと思うけれど、どうせだったら東京でがんばっている人にチャンスを……と思っている同党の東京の支持者は、実は多いと思うのだ。それで当選すればいいけれど、このままだと結構厳しい。だったら……と思わないだろうか?

百合子さんファーストの会はこのままだとどこまでいっても個人政党の域を出ない。なので、一度仕切り直して、とにかく後ろから刺されてばかりで大変な玉木さん(いろいろ言いたいことはあるけれど)を応援してほしい。そして、今回は……

いや、各候補にバランスよく(もないか)コメントしている場合じゃない。このままだと本当に東京選挙区から旧第三極が消える。「リベラルだけれど、昔の左翼じゃない」勢力が消える。「同性婚とか夫婦別姓とか、当たり前のようにOKにしたいけど、かと言ってとりあえず耳さわりのいいバラマキだけ言い続ける無責任左翼の声がでかくなるとマジでやばい(そして自民は問題外)」という層の受け皿がなくなる。

そしてこうして考えたとき、もう選択肢は「一つ」しかないんじゃないかと思う。

1.自民党支持者は執行部の支持者をバカにした人選に抗議するべき

自民党支持者のみなさん。あなたたちは現執行部(に影響力を行使する人たち)にバカにされている。野党がどうせ自爆してくれるからということで、どう考えても自分で考える力のない、人形のようなタレント候補をあてがわれている(その方が手駒が増えて使いやすいから)。本当に怒っていいと思う。そのとき、もっとも魅力的な選択肢は、普通に考えて無所属で、各政策に是々非々でコミットすることを明言している(それしか当選後に存在感を出せないから、本当にやると思う)候補じゃないかと思う。

2.国民民主、維新、ファーストなどの第三極支持者は一回いろいろな恨みは忘れて、まとまろう

いろいろ悪口書いちゃってごめんなさい。でも、冷静に「この先」のことを考えよう。いま、ここで第三極が(山本太郎が当選しているのに)1議席も取れなかったら、本当に平成の政治改革の成果は水泡に帰す。あの30年はなんだったのか、ということになってしまう。自民党の露悪と、反自民の偽善の議論ごっこが永遠に反復され、「決められない」政治が復権する。それに加えてれいわの伸び次第では時代が、最悪の左派ポピュリズムのほうに傾きかねない。海老沢さんも苦労してきたのだろうし、荒木さんも党を背負っているから引けないのは分かる。でも、だからこそ、どちらの党でもない彼を立てて、なんとか食い込むことを考えるべきだと思う。

3.いろいろあったけれど、やっぱり乙武さんにはリーダーの資質がある

彼のだめなところも、友人として多少は知っている。女性関係云々もそうだけれど、利用できるものは利用しようというしたたかさが裏目に出てしまうことが多かったり、八方美人的に振る舞って身動きが鈍くなることもある。あと、障害ネタ自虐冗談はどう反応していいかわからないときがあるので、正直あまり言わないでほしい(笑)。

しかし、間違いなくこの男にはリーダーの資質がある。なぜならば、彼はそうとしか生きられないから。彼はこの身体に生まれたことを逆手に取ってメッセージを送ることを人生のテーマにした人間だ。それをやりきれないと死ねない人間だ。乙武さんにはもっとコスパよく、人から尊敬されて社会的地位を高くする生き方はいくらでもあったはずだけど、それを選ばなかった。それは彼が政治的な介入でこの社会を変えないと、どうしても気がすまないからだ。自分自身をここまでコマにしてしまったら、政治的な介入でもできないと元が取れないからだ。このタイプの人間は、こうとしか生きられない。タレントすごろくの「上がり」として国会でも行くか、みたいな連中とは覚悟が違う。ほとんど怨念と言っていい執着がある。自分の手で社会を変えないと死ねないと、本当に思っている。誰かを批判して、正義に酔った演説をして気持ちよくなっている連中よりも、はるかに実感のこもった(だからこそ表面には出ない)憤りがある。この身体に、五体不満足な身体に生まれたことで、諦めなければいけなかった社会に対する憤りが、あまりに深いために表には決して出てこない憤りが、彼にはある。だから演説で気持ちよくなって終わり、ではなく結果に必ずこだわり続ける。彼はそうしか生きられないからだ。だから乙武洋匡こそ、僕らの政治的リーダーにふさわしい。僕はずっと、そう思っている。

※この記事の続編的なことを、(選挙の結果を受けて)有料マガジンで書いています。月4回を目安に、社会時評や文化批評、そして新著の草稿などを公開しています。よかったら、購読して下さい。

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