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シン・村上春樹論(仮) #5 男のいない男たち

この『シン・村上春樹論』も今回で最終回だ。お気づきの人も多いと思うが、この春樹論は来週に出版される僕の新刊『砂漠と異人たち』の草稿に当たる文章だ。(この本、いま予約すると発売日に届くと思うので、気になる人はよろしくお願いします。)

これは僕がこの2年間、「業界」から距離を置いてコツコツ書いてきた本で、また改めてここでも紹介したいと思うが、実は一連の春樹論はこの情報社会の中で僕たちはどのような主体として振る舞うべきか、というちょっと大きなテーマについて考えたことのパズルの一部でもあったわけだ。でも、それが絶対に必要な巨大なピースであったことは、一読したら理解してくれると思う。

「いない」のは「女」か?

さて、その上で今回はもう少しだけ、村上春樹の話を続けよう。繰り返すがおそらく、村上春樹もこれまで指摘したこの行き詰まりに自覚的だ。その迷いが端的に出現したのが、2014年に出版された短編集『女のいない男たち』だ。この短編集はそのタイトルにあるように、妻や恋人のいない、もしくはそうした女性に去られようとしている男性たちの物語を集めたものだ。しかし、僕は考える。この短編集に本当に相応しいタイトルは『男のいない男たち』だ。なぜならば、この短編集に収録された作品は唯一、初出時に別の雑誌に掲載された『シェエラザード』を除くすべてのものが、何らかの理由で魅力的な男友達と仲良くなるけれどうまくいかない、という物語が展開しているからだ。

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