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重すぎる処罰を課す「公安条例」|周庭

香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。 2016年の旧正月、香港の旺角(モンコック)では無許可の屋台を撤去しようとする警察と市民の衝突が起こりました。衝突に参加した人々には、今月重すぎると言える判決が下され、運動家の間では衝撃と落胆が広がっています。(翻訳:伯川星矢)

御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第17回 重すぎる処罰を課す「公安条例」

今月もまた様々なことが起きた一ヶ月でした。

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▲6月10日が投票日だった区議員補欠選挙、候補者の李鳳琼氏と

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最近、香港の社会運動家にとって、もっとも衝撃的で、もっとも落胆した出来事がありました。以前、裁判で暴動罪成立の判決を受けたデモ参加者たちが、5月31日付で28から51ヶ月の禁固刑になったのです。2年前の旧正月、警察が突然旺角(モンコック)の路上で食べ物を売っている屋台の取り締まりを始め、周りの市民が警察を阻止しようとしたが、最終的に衝突事件となってしまいました。香港でも珍しいことですが、警察と市民がレンガを投げ合い、さらには警察が空に向けて威嚇射撃をする事態となりました。最終的に、警察は翌日の早朝に屋台の強制退去を完了し、警察と対抗した人々は暴動罪で逮捕されました。そのうちの9人が先日禁固刑となり、1人が更正施設の入所となりました。

実刑判決の受けた10人のうち、一番若い19歳の莫嘉濤(モック・カートウ)は、実刑51ヶ月という一番重い処罰を受けることとなりました。若者の一番輝かしい青春が、ここで奪われてしまいました。彼らが暴力を振ったのは事実だ、法を犯したのだ、それに見合った判決を受けるのは当然ではないか、と思う人もいるかもしれません。そう結論づける前に、他国と香港の暴動罪の定義と処罰を比べてみましょう。

チャップマン・ツアン(曾焯文)先生の著書「各国暴動罪定義と処罰(原題:各國暴動罪定義及刑罰)」によれば、他国の暴動罪の定義は香港よりも明白で、処罰も軽いことがわかります。たとえばフィンランドの暴動罪は、過激な暴動による他人への暴行や私有財産の破損が罪に問われ、指導者は罰金もしくは4年以下の禁固刑となります。ドイツでは、対人・対物の暴力行為に参加し、公共安全に危害を加えた場合、3年以下の禁固刑・もしくは罰金が適用されます。イギリスは暴動罪を発明した国でもありますが、50年以上も前に時代にそぐわないという理由で廃止となりました。

しかし、香港での「公安条例」の定義は範囲が広く、曖昧です。3人以上の人が「集結し、秩序を乱す行為または威嚇・挑発・侮辱的な行為を行い、意図的にまたは相当な可能性で社会の安寧を脅かすか、上記行動によって他人を扇動し社会の安寧を脅かす恐れを他人に与えた場合」、「違法集結罪」を問われます。違法集結者が社会の安寧を脅かす場合には、その結集を「暴動」と見なし、最大懲役10年の罰則があります。「社会の安寧を脅かす」とはいったいどういう意味なのか、定義がとても曖昧です。そのため、「公安条例」は警察側による政治告訴の武器として使われ、反対者の弾圧に利用されることが多々あります。他の国に比べて香港の暴動罪は罰則が厳しく、時代にもそぐわないです。

旺角の衝突に参加した人は確かに「違法」なことを行いました。しかし、だからと言って彼らが受ける刑罰が必ずしも合理的であるとは限りません。時代にそぐわない、国際基準にも合わない「公安条例」は、市民のデモ・集会の権利を狭めるとことなります。

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▲禁固刑となった梁天琦(写真右から2番目)。ネイサン・ロー、ジョシュア・ウォンらと。

追記:6月11日、旺角で起きた衝突事件で起訴された他の3人の参加者である盧建民、黃家駒と立法会補欠選挙に出馬したことある梁天琦が、それぞれ7年・3年半・6年の禁固刑となりました。本当に、狂っているとしか言いようがありません。

(続く)


▼プロフィール
周 庭(Agnes CHOW)

1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。

前回:第16回 スタンフォード大学での講演
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