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男と怪我3 | 井上敏樹

平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。ようやく歯の怪我から回復しつつある敏樹先生ですが、今回は過去の「骨折」にまつわるエピソードを語ります。
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脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第26回
男 と 怪 我 3  井上敏樹

さて、一応、歯の報告をしておく。京都から帰って来て医者に行った。やはり想像通りだった。折った前歯群はそれなりに根づいてはいるものの不完全であるという。奥歯を使えば食事はなんとかなるが、前歯はいずれ根が死に脱落するらしい。そんなわけで結局インプラントにする事にした。来週、抜歯である。歯を抜き、土台となるインプラントを骨に埋め込み仮歯を入れる。その後、土台が落ちついたら本歯を嵌め込む。全ての治療が終わるのは五カ月後だと言う。先は長い。今回の事と言い、もしかしたら私は怪我をしやすい体質なのかもしれない。要するに不注意だということだ。私自身にはそんな自覚はない。寧ろ注意深い方ではないだろうか。夜道を歩いていて足音がすれば素早く振り向く。殺し屋かもしれないからだ。バレンタインに貰ったチョコは人に食わせてからいただく。毒が入ってるかもしれないからだ。とは言え思い当たる節もある。それは私の仕事に関する癖のようなもので確かに不注意を招くものだ。ある日、電話がかかって来たので出てみると相手は銀行である。あなたは昨日、ATMで金を降ろさなかったか、と尋ねて来る。確かに、と私。すると向こうは、あなたはその際金を取らずに立ち去ったのではないのかと畳かける。私はカチンと来た。いくらなんでも降ろした金を残したまま銀行を後にする馬鹿がいるものか。が、怒鳴りつける前に一応念のために財布を確認する事にした。財布は空っぽだった。そう言えば、と思い出した。私は銀行に行った時、仕事の事で頭がいっぱいだったのだ。次のストーリーの殺人事件がめまぐるしく頭の中で展開し、現実が見えていなかった。私が平身低頭電話の相手に謝ったのは言うまでもない。

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