魔法使いの研究室-01

コンピュータは「音がなるプロジェクター」の夢を見るか?(落合陽一『魔法使いの研究室』vol.3「場と場の相互作用」)

今朝のメルマガは、メディアアーティスト・落合陽一さんの連載「魔法使いの研究室」の第3回をお届けします! テーマは「場と場の相互作用」です。
今回はテクノロジーの進歩の歴史を振り返りつつ、コンピュータ・プログラミングというさらなる魔術によって、これまで別個の〈場〉にあった「光」と「音」が相互作用し、人間の知覚に変容をもたらす未来を展望します。

落合 こんにちは、落合陽一です。「魔法使いの研究室」も今回で第三回をむかえました。今日は「場と場の相互作用」というテーマで話していこうと思います。というのも、僕は場という言葉がとっても好きで、実は博士論文のテーマも「場の制御」を扱ったものでした。

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落合 画面の中から飛び出して現実のものを対象にコンピュータ制御することが、最近のコンピュータインタラクション研究のトレンドであることは、この連続講義では繰り返しお伝えしてきました。しかし、その多くはロボットの研究に代表されるように、対象を直接コントロールしようというアプローチをとっています。
 それに対して僕の研究は、対象そのものではなく、その対象が含まれる場をコントロールすることによって現実空間を制御するという発想をしています。その場のことを、コンピューテーショナルポテンシャルフィールドとか、コンピューテーショナルフィールドと名付けて、磁場や音場や光の場を使ってどうやって現実を制御するかということを考えてきました。そのような物理場自体をどうやってメディアにしていくかをよく考えています。

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落合 今回この「場と場の相互作用」というコンピュータの力学を考えるにあたって、まずは現在にいたるまでの力学的な原理の歴史――それはつまり道具の歴史でもあるわけですが――を、駆け足で振り返ってみたいと思います。
 まずとりあげたいのは石器です。狩猟とかに使っていたものですが、こいつの力学的な原理がどこに現れているかといったら、刃の部分ですよね。磨いたり叩いたりなど、人間が直接的に力を伝えることによって使える装置です。しかも、これを対象物に対して動かす行動は、これを作る時の行動とほとんど一緒ですよね。力を使ってがつんと砕き、その砕いたものを使って対象物をがつんとやる。実に単純な力学的インターフェイスです。

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落合 さて、それからしばらくすると、人間は力と運動量の変換作用についての力学的な原理を発明していきます。そのわかりやすい代表例が、てこの原理です。てこの原理は大きく動かせば小さい方に多くの力がかかるというものですが、人類はそういった変換作用を、ものを動かしたり形を変化させる手段として道具に応用しはじめました。

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落合 時代が流れるにつれ、それをメカニカルに行えるようになり、エンジンや蒸気機関などが発明されました。これらは、変換作用を使って力を増幅し、強力な回転エネルギーや縦方向の振動をもたらすものです。
 この時代までの道具の歴史の特徴は、何が起こっているかが目で見てわかるということです。力を直接変換しているので、どんなに複雑でも入念に見ていけば「ここがこうなって……」みたいなことが理解できるのです。
 しかし、それも19世紀から20世紀までのことでした。電気的インターフェイスが登場すると、ふたを開けて見ても、われわれには何が起こっているのかがわからなくなってきます。たとえば、洗濯機のスイッチを押したらなんでドラム缶が回るかなんて、見ただけではわからないですよね。そんなふうに、電気信号の登場によって、対象物と対象物の直接的な関係が崩れていきました。そして、情報インターフェース(プログラミング)の登場により単なる電気のON/OFFだけでなく,そこに発明者や製作者の恣意的な機能を持たせることが可能になりました。たとえば,電気信号が3回来たら,赤色に,4回来たら青色にといった風に「プログラミング」されているとするならば,それがどういった機序によって動くかは作った人のみが知るということです。
 加えて、映像装置の時代以降−–この時代からあらゆる装置というものはだんだんマルチメディアになっていきます。このマルチメディアに関して特筆すべき特徴は、映像にしろ音声にしろ、人間の五感の尺を基準にして作られていることです。
 たとえば、ディズニーの映像とかは15Hzくらい、つまり1秒間に15枚の絵をぱらぱらとめくっているだけですが、われわれはそれをアニメーションだと知覚しますよね。30Hzになれば完全に動いているとしか思えなくなるし、どんなに頑張っても60Hz以上は知覚できない。そうすると映像の規格は全部60Hzで揃えてやればよくて、それ以上は別に必要ないわけです。

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落合 同じような話ですが、この前どこかで講演をしたときに「落合さんはこれからはデジタルだって言っていますけれど、レコードのほうがCDよりも音がいいじゃないですか」って言われたことがあります。
 その発言は明確に間違っています。なぜなら、CDというデバイスは人間の平均的な聴覚の感覚にサンプリングした、質の低い音がでてくるように設定されているに過ぎないんですよ。レコードはそういったサンプリングをせず、連続量で記録されているから音がいいんです。でもいまある余剰技術を使って本気をだして、レコードよりも細かく音がとれるCDをつくったら、単純にCDの方がいい音になるはずなんですよね。それはデジタルかアナログかという話ではなくて、単に解像度の問題なんです。
 繰り返しになりますが、テレビにしろCDにしろ、映像の世紀のマルチメディアの大きな特徴は、実は人間の感覚のロジックに従って作られていることです。最終的な受け手が人間だから、人間の感覚器を満たすことを前提に情報が規定されているのです。
 そして訪れた21世紀、これからコンピュータが自然に溶けた世界になればなるほど、僕はこれまでのマルチメディアの時代のような、人間の感覚や意味に合わせたロジックとは別の力学が働くようになると考えています。コンピュータの力学が自然に実装されるようになったとき、これまで人間の感覚に合わせて実装されていた力学は、コンピュータの感覚に合わせて実装されるようになります。その力学こそが、今回のタイトルに据えた「場と場の相互作用」なのです。どういうことでしょうか。
 たとえば、みなさんは「音がなるプロジェクター」をイメージしたことがありますか?

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落合 ほとんどの人が、いきなり「音がなるプロジェクター」と言われても意味がわからないと思います。イメージしたことなんて、なおさらないですよね。それは当然のことで、なぜなら人間にとって音は耳で聞くものであり映像は目で見るものだからです。つまり、その対象の物理量にはあたりまえのように感覚的な意味があるのです。
 しかし、コンピュータにとっては、そんなのどうでもいいんです。コンピュータからしたら光も音も同じ波でしかないから、同じように扱うことができるのです。光から音がでてもいいし、音から光がでてもいい。コンピュータは「音がなるプロジェクター」を考えることができるのです。

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落合 もっというと、こんなふうに上下が逆になった家があってもいいし、ちょっと前に話題になった「Deep Dream」みたいな絵を描いても、特に違和感はないわけです。

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