『プロミシング・ヤング・ウーマン』── ジェンダーバイアスの「形成への」怒り|加藤るみ
今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第19回をお届けします。
今回ご紹介するのは『プロミシング・ヤング・ウーマン』です。エメラルド・フェネル監督初作品で、アカデミー賞脚本賞を受賞した本作。
被害者から加害者への一方的な糾弾にとどまらない形でジェンダーバイアスを取り上げた本作に、るみさんは女性として何を感じたのでしょうか。
加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage
第19回 『プロミシング・ヤング・ウーマン』── ジェンダーバイアスの「形成への」怒り|加藤るみ
おはようございます、加藤るみです。
カルピスとのりの季節になりました。
突然、意味不明なことを言ってすいません。
昔から、この季節になるとお父さんの仕事付き合いの人から送られてくるお中元を開封するのが私の楽しみでした。
小学生の私にとって、この季節の玄関はまさにパラダイスで、玄関に転がっているお中元の包装をベリベリ破る快感ほど心地良いものはないと思っていました。
その破り散らかした包装紙はほったらかしといて、お中元の中身だけさらっていくという雑な怪盗であったため、毎回母に怒られるというのもセットでお中元の記憶が蘇ります。
色々な品物が送られてくるなか、私が「キターー!!!」とテンションが上がったのは、“カルピスとのり”。
そう、この2トップです。
そして、毎年お中元怪盗をしていると、だいたいどの人が何を送ってくるかというのも把握できるようになってくるわけです。
それで、コーヒーだったり、せっけんだったり、タオルだったり、小学生にとっては1ミリも心ときめかないものを送ってくる人にはサンタさんに手紙を書くように「カルピスのほうがうれしいです」と、一筆送ろうと思っていたくらいで。
これがちびまる子ちゃんだったら、ここで「アンタに送っているわけじゃない」とキートン山田さんの一言ツッコミのナレーションが流れそうですが、あの頃の私にとってはとっても重要で、冬はお年玉、夏はお中元、くらいのビッグイベントだったんです。
それで私の個人史のなかで、この“カルピスとのり”には忘れられない出来事もありました。
カルピスとのりの組み合わせを偏愛していた私は、とにかくカルピスを飲みながらのりを食べるのが大好きだったんですね。
夏休みはアニマックスを見ながら、カルピスとのりを交互に飲み食いするのが、小学生加藤るみのこの上ない幸せを感じる瞬間で、そんなある日、いつもと変わらぬ“カルピスとのり”の組み合わせを楽しんでいたら、お腹に激痛が……。
尋常じゃない、今まで感じたことのないお腹の痛さにもがき苦しみ、即病院へ連れていかれました。
その時の記憶は曖昧でしかないのですが、どうやらカルピスとのりの食べすぎでのりが胃にひっついて胃がおかしくなったとかどうとかで、まさかの入院することに。
人生初の入院の記憶は、カルピスとのりの食べすぎというマヌケすぎる診断理由でした。
もうあれ以来、爆食いすることはなくなりましたが、今だに”カルピスとのり”の季節になるとこの事件を思い出します。
さて、
今回紹介する作品は、
現在公開中の『プロミシング・ヤング・ウーマン』です。
観終わったあと、放心状態……、でした。
基本的に土日は映画館に行かないと決めている私ですが(人が多くて疲れてしまうから)、公開日の7月16日(金)は用事があり観れず、どうしてもどうしても早く観たくて、17日(土)に観ることに。
定期検診の歯医者をさっさと済ませ、電車で東宝シネマズなんばに直行。
だいたい、いつも30分前には着くようにしているのですが、なんばの東宝シネマズは”本館”と”別館”があり、上映は”別館”なのに”本館”に向かってしまい……(なんばの東宝シネマズは、本館と別館が絶妙に離れている)。
30分前に着き、なんならマルイのKALDIでも寄るか〜くらいの気持ちでいたのに(本館はマルイの上にある)、大急ぎで別館に猛ダッシュ。
灼熱のなんばを激走して、汗ダラダラ、マスクのなかはデロデロで、きっちりメイクのはずが半顔すっぴん。
私としたことが、もう予告が始まっていて薄暗いなか「スイマセンスイマセン」と、なんとか席にたどり着き(私自身この始まる直前に人がドタバタやってくる感じがとても嫌なので情けなさすぎた)、映画泥棒のCMすら観る余裕もなく間髪入れずに映画はスタート。
そして、上映後のわたし。
映画を観る前にこんなドタバタ劇があったことを、キッパリ忘れるほどの(忘れてないし、しっかり書いてるけど)とてつもない衝撃をくらったのでした。
今年のベスト! と言いたいところですが、前回の『少年の君』でも、今年のベスト的なことを書いていましたが、毎回毎回「ベスト!」とか言っていると、私の信頼にも関わってきそうなので、“ベスト級”と書き記すことにします。
いやでも、本当に凄まじい映画でした。
『アンナ・カレーニナ』('12)や『リリーのすべて』('15)などで俳優としてキャリアを積み、本作で自身のオリジナル脚本でメガホンをとった、エメラルド・フェネルの長編映画監督デビュー作です。
本作で、監督は長編デビュー作にして今年のアカデミー賞脚本賞を受賞しました。
この俳優からのキャリアアップ、初長編で快挙を遂げる姿は昨年日本公開の『ブックスマート』(’19)のオリヴィア・ワイルドや『mid90s』('18)のジョナ・ヒルを彷彿とさせます。
近年、俳優から監督デビューを果たしたルーキーたちの活躍が著しいですね。
キャリー・マリガン演じる女性、キャシーはコーヒーショップで働き、ごく平凡な生活を送っているかに見える。
けれど、彼女には夜になるとメイクと衣装で別人キャラをつくって街へ繰り出し、バーやクラブで声を掛けてきた男たちにお持ち帰りされるという裏の顔があった。
明るい未来を約束された若い女性(=プロミシング・ヤング・ウーマン)だと誰もが信じていたキャシーが、ある不可解な事件によって約束された未来をふいに奪われたことから、復讐を企てる姿を描く……。
© Universal Pictures
この物語が、単なる復讐劇だったら、観終わったあとに「良かった」と言えたのかもしれないです。
けれど、この物語には決して「良かった」とは言えないしんどさが込み上げてきて、復讐劇であることの、痛快感とか爽快感なんてものは全くなく、満員電車でぎゅうぎゅう詰めにされたような窒息感に覆い被せられ、ただひたすら苦しくなりました。
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