古川健介さん素材のコピー

そもそも検索ワードなんて要らない?――nanapi代表・古川健介が語る「ポスト検索」の時代

今日はPLANETSのnote参入を記念して、元nanapi代表で、現在はSupershipの取締役を務める「けんすう」こと古川健介さんと宇野常寛の対談を特別再配信します(初出「ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.135」)。Google検索への最適化がもたらす「息苦しさ」とは? そして、ブラウザではなくアプリへ「閉じていく」ことで生まれる新たな可能性とは――!?

この記事は2014年8月14日時点の情報です。
nanapiは合併してSupershipになりました。
こちらのけんすうさんインタビューも収録した、対談集『資本主義こそが究極の革命である』も合わせてチェックしてください!

▼プロフィール
古川健介〈ふるかわ・けんすけ〉

1981年6月2日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvの大手サイトに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡後、同社にてCGM事業の立ち上げを担当。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、Howtoサイト「nanapi」を運営する株式会社nanapi代表取締役に就任。その後、合併を経てSupership株式会社の取締役に就任、現在に至る。

◎インタビュー:宇野常寛/聞き手・構成:稲葉ほたて

■リクルートが本当に凄かったのはWeb1.0時代ではないか

宇野 けんすうは元々リクルートにいたわけだよね。個人的にはリクルートが本当に凄かったのって、江副さん時代よりも学生時代に僕たちが見た――リクナビやSUUMOのようなサイトを作って、一方で「R25」や「ゼクシィ」を仕掛けていった――あの90年代後半からゼロ年代前半の時期だったんじゃないかと思う。

 結婚や就職といった、人生の一大イベントであるがゆえに逆に思考停止が起きやすい領域のインフラを握ってえげつなくそのジャンルの文化の決定権を行使していくスタイルって、今思うとジャンルごとにコミュニケーションのインフラが特定のプラットフォームにどんどん集約していったウェブのある時期の流れと相似形をなしていた。

 でも、当時の「うわ、悔しいけどリクルートって凄いな」と思ったヤバさって、やっぱりWeb2.0以降、なくなってしまったんだよね。それは、食べログやNAVERまとめのように、かつてのリクルートがトップダウンで行っていたことをボトムアップで実現するプラットフォームが登場したからでしょう。

 とはいえ、"BtoB"の仕組みとしてあまりに強力な存在になったリクルートという存在に、新興のウェブサービスがどこか上手く勝ちきれないまま戦っているという構図が生まれているのも事実だと思う。金になるけれどつまらなくなった1.0の世界と、面白いけれど金にならない2.0の世界。リクルートを巡る状況って今の日本そのものだと思うわけ。

けんすう リクルートの強みは、やはり営業の力です。例としてゼクシィを挙げると分かりやすいと思います。ゼクシィはほとんどの結婚式場に営業に行って、情報を全部とってきて毎回一冊の本にまとめているんですね。で、今度は本屋にも営業をかけまくって売った本の利益をすべて本屋に入れてしまう。すると、本屋としてはゼクシィが一番稼げるものだから棚を確保するんですね。これはホットペッパーにしても同様で、街中で配るだけなのにハイスペックな人材を雇って徹底的に教育を施した上でやるわけですよ。結局、そういう強い営業の力によるプッシュで押し切る力は、クライアントから大量の資金を集めていることによって可能になっているわけですね。

 実は、僕はリクルートにいたときに、リクルートモデルの次を考えるミッションがあったんです。でも、世界的に見てもリクルートを超えるビジネスモデルなんて、まず存在しなかった(笑)。だって、あれだけ営業でプッシュする仕掛けなのに、利益率30%をキープして、売上1兆を超えているわけですよ。地域広告も、他国の倍以上はリクルートという一つの会社が押さえている。まさに異常な状態です。まあ、逆に言えば日本以外で、リクルートモデルが成立している国もないとも言えるわけですが。

 そういう中で、リクルートでWeb2.0的なことをやっても、単に利益が減るだけであってやらない方がマシなんです。明確にイノベーションのジレンマです。しかも一方で、食べログを放置していても、別にホットペッパーの売上は大して下がらないですから(笑)。

宇野 いや、そうだよね。だって、比喩的に言えばみんな食べログで調べた店にホットペッパーのクーポンを使って行くからね。

けんすう そうなんです。そうなると、店としては「ホットペッパーって集客力あるな」と思うわけですね(笑)。日本では2ちゃんねるまとめのように、お金を稼がなくてもいい人たちが主導権を握っているものが面白いのだと思いますね。海外のバイラルメディアって何十億円と調達できるけれども、2ちゃんねるが1億円を調達するのだって非現実的です。そうすると、経済的活動の外側にいる面白い人たちが参加してくるコンテンツが出てくるものが主流になってくるんです。

 そうでない場合は、偶然ですよね。LINEは明確にグローバルサービスですが、ハンゲームで資金を沢山持っていたのが大きいです。普通にやっていたら、ワッツアップのような大量の資金調達をしている海外サービスに負けていたはずです。ニコニコ動画だって、着メロの収益があって、川上さんのような非合理なことを面白がってやる経営者がいたから成立したわけでしょう。その点、食べログなんかはカカクコムの次の成長戦略の柱になってしまって、マネタイズを無理やり始めていますが、ひじょうに大変だと思いますね。そういう意味で、リクルート的なものにWeb2.0的なサービスが勝てないのは、やはり資本力だとは思います。

――ネットビジネスの難しいところって、ニコニコ動画がいい例ですが、ソーシャル上での評価が必ずしも市場の評価には反映されないことだと思うんです。そういうソーシャルと市場の乖離を上手く調整して、クリティカルマスを超えるための資金を与えるはずのベンチャーキャピタルが、日本では色々な意味で弱いという問題が一つありますよね。

けんすう Uberが1兆円の評価額で500億円を集めるようなのは、日本では厳しいですよね。まあ、シリコンバレーって壮大なインサイダーなんですよ。身内で情報を回して、「ハーバードの頭いいやつがサービス作ったから無理やりお金を突っ込んで成長させてしまおうぜ」みたいな世界だということはあります。日本の場合は、お金を全く稼がなくても儲かるか、最初から凄い儲かるかしかビジネスモデルがない気がしますね。

宇野 僕がけんすうという実業家の面白いと思うところは、リクルート的にウェブ1.0的軟着陸が一番カネになるつまらない日本社会に最適化するわけでもなければ、カネにはあまりならないけれど、文化的な生成力だけはやたらある「2ちゃんねる的なアナーキズム」にも流れなていなくて、何か両者の中間をふわふわ漂いながらユニークなことをやっているところなんですね。

けんすう リクルートが好きだったのは、無闇矢鱈に情報を集めていたことでしかなかったんだと、あるときに気づいたんですね(笑)。

 自分は、情報がたくさん集まっていることそれ自体に興奮するんです。例えば昔、大学のサークルが配っているチラシをひたすらスキャンする「サークルライフ」というのをやっていたんです。あの一日か二日しか使われないチラシが、ネット上に何百枚とある。凄いですよ。ぜひ、見ていただきたいですね。

▲サークルライフ

 言ってしまえば、今までにネットに存在していなかった大量の情報が出てくること自体が快感だったに過ぎないんです。だから、自分でもそういう状態を作りたかった。内容に関しても、実は興味ないです。エクセルのハウツーが1000件あって、それがさらに増えていく。そういう状況が好きというだけで、別にぶっちゃけ整理しなくてもいい(笑)。そういうところは、nanapiにつながっていたのだと思います。

■ 最近興味が有るのは「アンサー」

けんすう ただ、僕自身の最近の興味というところでは、アンサーという最近始めたQ&Aアプリですね。これが非常に手応えがあるんです。

▲iPhone/Andoridアプリ「アンサー」

――Q&Aアプリなのに、マトモな質問をしないで雑談をしていてもいいというアプリですね(笑)。どのくらいの人が使っているんですか?

けんすう 投稿数で言うと一日に50万近くあります。2ちゃんねるの投稿数が、いま1日250万ぐらいで、スピード感的には実は2000年か2001年くらいの2ちゃんねるの数字なのかな。まあ、その割には僕の周囲の30代は使っていないし、訳がわからないと言われるのが面白いところですね。

 実際に使っているのは、若い子ですね。10代が55%で、20代前半が40%。そこで彼らが話していることも、Twitterとは違いますね。単に「おはよう」と書き込んでも、アンサーだと10件や20件返ってくるし、なんか妙に満たされる感じが強いんですね。しかも、現在ユニークユーザー数が10数万人なのですが、滞在時間の平均が66分あります。

――その長さは動画サイト並みですね……!

けんすう 長い人は1日中使うような状態になっている。nanapiなんて、平均滞在時間は2分ないですからね(笑)。そこはアプリの強みでもあります。まあ、ちょっと理解の範疇を超えた世界になっていますよね。非常に閉じた世界で、良し悪しなのですがコテハンも登場してきていて、アンサー内で恋人を作ったりもしています。

―― 一時期のラウンジ板とかVIPみたいですね。

けんすう むしろカラオケ板かもしれない(笑)。なぜか一番人気があるのが、カラオケの音声をみんなでアップすることなんです。まさに2ちゃんねるなどの話題が出た「PLANETS vol.8」で話した「手段の目的化」という問題意識が大きくて、そういう、いわば完全に目的を失ったコミュニケーションがどうなるかという興味で作ったんですね。

宇野 つまり、nanapiなどのそれ以前のサービスでは、まだ手段と目的が分離していた……?

けんすう nanapiを作ったときには、何か目的があって人間は行動していて、そのためには手段を調べることになるはずだから、手段を軸としたハウツーサービスをやれば上手くいくはずだ……と思っていたんですよ。

 ところが、実は検索ワードを見てみると、「寂しい」とか「彼氏ほしい」とか、検索してもしょうがないことでのクエリが結構来るんですよ(笑)。しかも、目的があったとしても、そこから課題を顕在化させて、それを言語化して検索エンジンの中に入れて、さらに検索結果10件の中から取捨選択していく……なんてことは、あまりにも敷居が高すぎて、多くの人には出来ないんです。

 そうなると、そもそも何に悩んでいるかもわからない人を対象にしなければいけないと思ったんです。そういう流れで、まずはみんなでコミュニケーションをとるところから作ってみたのがアンサーなんですね。

宇野 検索ワードをカギに位置づける思想をどう評価するかという問題ですよね。今の話を言い換えると人間は自分が意識的に入力した言葉で検索している限りは何者にも出会えないんじゃないか、という疑問につながると思う。検索は欲望をつくることができない。しかし検索という文化から離れることで、インターネットははじめて他者性を取り込み、欲望をつくるものになれるかもしれない、と。

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