男と食 17 | 井上敏樹
平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回のテーマは「おふくろの味」。料理が得意で、強烈な性格の持ち主だったという敏樹先生のお母さん。悪童だった敏樹少年がきつい折檻を受けたエピソードをはじめ、母親との印象深い思い出を語ります。
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男 と 食 17 井上敏樹
おふくろの味、というものがある。よくある質問で、人生最後の食事はなにがいいか、と問われ、『おふくろが作ってくれた味噌汁』とか『おふくろが握ってくれたおにぎり』とかの答えが多いが、私はこういうのがどうも苦手だ。感傷的、偽善的な感じがする。私が最後に食べたいのは卵白だけで仕上げた河豚雑炊である。別に私の母が料理下手だったわけではない。母は料理が好きだったし、またなかなかの腕前であった。電子レンジが発売された当時、母は購入を迷っていたが、まだ温め機能しかない電子レンジを、あんな物はつまらないと結論し、代わりにオーブンを買っていた。このオーブンを使って、母はパンを焼き、ケーキを焼き、様々な料理を作った。中でも得意だったのは『豚肉のリンゴソース』で、敢えて言えばこれが私にとってのおふくろの味、と言える。随分お洒落のようだが、味噌汁やおにぎりだけがおふくろを象徴するわけではない。さて、『豚肉のリンゴソース』だが、これは比較的簡単で見た目も派手で大変旨い。ちょっとしたホームパーティに出せば、お客たちは狂喜乱舞する事請け合いである。まず、豚肉のロースの塊りを一キロほど用意する。強めに塩胡椒して、型崩れしないように出来ればたこ糸で縛り、フライパンで肉に焼き色をつける。肉を取り出し、休ませている間にバターとオリーブオイルを半々くらいフライパンに引いてタマネギを炒める。タマネギは大体一個分ほどだ。タマネギ臭さが飛んだら、やはり一個分のリンゴを厚さ二ミリ程度の銀杏切りにして一緒に炒める。リンゴがしんなりと半透明になったら、大さじ一杯分のケッパーを加え、先の豚肉にかけるようにしてアルミホイルで包み込む。後は210度ほどのオーブンで焼けばいいのだが、豚肉は加熱し過ぎると固くなるので要注意だ。肉塊に鉄串を刺して唇に当て、中まで火が通っていれば大丈夫。出来上がった物を二センチほどに切りわけ、ふにゃりとなったタマネギとリンゴをソース代わりに絡めながら食べる。白ワインに合うだろう。
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