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男と食 26 | 井上敏樹

平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。本連載を元にした単行本『男と遊び』の刊行を経て、待望の再開です。
今回は、初めて訪れた鮨屋でのエピソードです。普段は二ヶ月先まで行きつけの店の予約をとっているという敏樹先生ですが、このコロナ禍で予約していた店が次々と休業してしまいます。そんな中、営業を続けているとある鮨屋に行ってみることにしますが……?

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脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第55回
男 と 食  26          井上敏樹 

さて、『男と遊び』が上梓され、二回も連載をさぼってしまった。誠にもって申し訳ない。脚本の仕事が忙しかったせいもあるが、コロナ騒ぎで少々鬱になっていたのだ。なにしろ飲食を生きる喜びとしている私である。コロナが憎い。もし私がこよなく愛する店が閉店に追い込まれれば心にぽっかりと穴があく事、明白である。概ね、いつも私は二ヵ月先まで行くべき店の予約をしておく。それが、次々と連絡があってしばらく店を休むと言う。こんなのは空前絶後だ。だが、あちこち調べてみると、いいか悪いかは別にして営業を続ける店もないではない。そこで、いいか悪いかは別にして、行ってみる事にした。初めての鮨屋である。だが、私はマスクなるものが嫌いである。ひどい花粉症でありながら、花粉の時期にもした事がない。あの、蒸れる感じがいやだ。息苦しい。また、私見によれば、顔を隠すという行為は、指名手配犯ではあるまいし、真っ当な人間のする事ではない。しかし、今回ばかりは仕方がないーマスクを買った。立体型の黒いマスクである。これが、ひどく評判が悪い。黒いシャツにスーツ、そこに黒いマスクとなると殺し屋にしか見えないと言う。だが、そこは考え方次第で、コロナ禍の昨今にあっては好都合だ。

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