見出し画像

【特別対談】ブロックチェーンがアートを変える日(前編)|施井泰平×久保田大海

PLANETS
「ブロックチェーン」と聞いて、どんなことを思い浮かべますか? 仮想通貨に使われている技術、分散型のしくみ、改ざんできない……どれも間違いではありませんが、実はもっと本質的で重要な特徴を秘めてます。たとえばアートの世界に、「数百年に一度の変化」を起こすかもしれない──? アート×ブロックチェーンを最前線で追求する二人が、そんな可能性を徹底的に考えます。
(司会:中川大地 構成:小池真幸)

ブロックチェーンは人工的なアウラを創出し、デジタルに実存を与える

──久保田大海さんは現在、NHK出版で編集者としてテクノロジー領域の書籍を多数手がけたのち、現在はブロックチェーンと暗号資産を軸にテクノロジーが作り上げる新しい金融・産業・経済のかたちを考えるニュースメディア「CoinDesk Japan」の創刊編集長からコンテンツプロデューサーを務められていますが、実は前職のNHK出版時代にプライベートで『PLANETS vol.8』(2012年)の制作も手伝っていただいてたんです。その後も、宇野のネット番組で仮想通貨について語っていただく機会などもあったんですが、そんなご縁の中で「とても面白い人がいるので、ぜひ紹介したい」ということで、施井泰平さんをご紹介いただいたんですね。
 施井さんは、ご自身も美術家として活動されているだけでなく、「アート×ブロックチェーン」を掲げるスタートバーン株式会社を2014年に創業されて、2020年8月にアート作品の流通・評価のためのブロックチェーン・インフラ「Startrail」をイーサリアムメインネット上に公開されています。こうした動向について、テック系やビジネス系のメディアではよく取り上げられてるんですが、この施井さんの事業がアートという営みにとってどんな意味があるのか、もっと本質的な話を伺いたいと思ったんですよ。ということで、今日はお二人に「ブロックチェーン技術がアートの価値創造をどう変えるのか」というテーマについて、ぜひ掘り下げていっていただければと思います。
 まず最初に、お二人が知り合われた経緯からお伺いできますか?

久保田 はい。NHK出版を辞めて『CoinDesk Japan』編集部に移った直後の2019年1月、「ブロックチェーンから考える ゲームとアートで〈価値〉を創る方法」というイベントを開催しました。そこに施井さんに登壇いただいたのが、出会いでしたね。当時はブロックチェーンの活用法が模索されはじめたばかりで、2020年現在と比べても、まだまだ先が見えない状況でした。そんな中、ゲームとアートという切り口から社会実装の方法を考えるイベントを開催することになり、スタートバーンでアート領域の変革に取り組まれていた施井さんにお声がけしたんです。

施井 そうでしたね。知人から突然「久保田さんという信頼できる人が手がけるイベントだから、面白いはずだ」と連絡が来て、参加することになりました。そうしたら、登壇前の打ち合わせの段階から「あれ、なんかこの人ちょっと違うぞ」という感覚があって。モデレーターをしてくれたときも、トークやコミュニケーションの勘所が圧倒的に鋭くて、「この人は何者なのだろう」という第一印象を抱いたことを覚えています。

──そのイベントでは、どんな議論が展開されたのですか?

久保田 最も印象に残っているのが、「ブロックチェーン技術によって、デジタル空間上の“現実感”が変わっていく」という話です。よく言われているブロックチェーンの技術特性のひとつに、「改ざんできない」点があります。つまり、デジタル空間上に、複製できないものを作ることが可能になる。一般的には、デジタル空間の特性は情報を無限に複製可能なものとして捉える点にあるわけですが、それとは真逆の発想になっているのが面白いと思いました。ゲームとアートが複製できないものになったとき、デジタル空間が現実空間に近づいていく。デジタル空間の中にも、土地の権利やそれを保証する管理者のような概念が生まれてきて、セカンドライフ的なメタバース(現実の機能を代替する仮想共有空間)が実現するのではないか、といった話をしましたよね。

施井 そうでしたね。僕なりの言葉でいえば、「デジタルに実存を与える」ということです。たとえば、ゲームに出てくる勇者の剣は、誰もが皆同じように主人公の気持ちになれるよう、いわば無限に複製されているといえます。でも、ブロックチェーンによって一意性と来歴が保証されると、固有の剣になる。現実世界と同じように、何十個、何百個と量産されてはいるけれど、それぞれの来歴が、ゲームを横断したかたちで、数百年後まで歴史として記録されることが可能になる。そうすれば、現実空間における「豊臣秀吉が使った刀」のように、「あのプレイヤーが使った剣」といった“実存”を与えられるのではないかと盛り上がりました。
 また、競走馬育成シミュレーションゲーム『ダービースタリオン』の例についても議論しましたよね。従来の育成ゲームは、クリアしたらその成果がリセットされてしまいます。しかし、一回育てたものが他のゲームに引き継げるようになると、現実世界における実存に近づいていきます。複製可能なデジタル空間ではアウラが消失していく、といった議論とは、まるっきり逆のかたちで実存が与えられていく。

──これは面白いですね。2000年代から2010年代にかけての社会では、インターネットをはじめとした情報技術の普及に伴って複製可能な「情報」の価値が目減りし、相対的に一回性の高い「体験」の価値が高まっていくという変化の潮流が顕著でした。典型的には、音楽産業で言えば、CDのようなパッケージメディアでのコンテンツの売り上げが激減する一方で、現場と紐づいた体験型消費が高まり、音楽フェスやライブアイドルの隆盛につながっていった。
 しかし、ブロックチェーンをそれまでの情報技術とはまったく違ったかたちで活用することで、体験価値が生む一回性とは、さらにまた別の唯一性が生まれてくる。ベンヤミンが論じていた「複製技術時代のアウラの喪失」を、ある意味で反転させる方向で、人工的なアウラが創出されるということですね。

施井 はい。すごく大きな話をすると、ブロックチェーンは、脈々と続いてきたデジタル革命のラストパンチ、言ってみれば究極的なピースになりうるのではないかと思っています。当初はただのサブ空間だったデジタル空間が、閾値を超えてメインの空間に取って代わるきっかけになりうる。インターネットは登場以来、その技術的な解像度を高めていく方向で発展してきましたが、その全体的な流れにおける最後の大きな革命が、ブロックチェーンなのではないかと思っています。

ウェブ 2.0時代のクリエイティビティはどこへ向かったか

──そうした構想を練り上げるに至るまでの、施井さんのアーティストとしての来歴もお伺いしたいです。アートワークを拝見すると、メディア技術を主題とした作品も多いですが、どのようにそうしたモチーフにたどり着いたのでしょうか?

施井 もともと美大の油絵科に通っていて、その頃からアーティストを目指していました。油絵科は音大でいえばピアノ科のような、西洋美術のメインストリームとみなされている専攻なので、アーティストを目指す人が行く傾向にあります。卒業後は死ぬまで価値のある創作を続けていきたいと思っていたので、「長いキャリアの中で登るべき山は何なのか?」を考えていました。そして美術史を振り返っていくうちに、技術革命によって社会が大きく変わるときに、象徴的なアーティストやムーブメントが生まれていることがわかってきたんです。そこで僕もアート活動を続けていくうえで、大きなテクノロジーの変革を象徴するような創作を手がけていきたいと思うようになりました。

人工知能が「生命」になるとき_書影_1120mm

【12/15(火)まで】オンライン講義全4回つき先行販売中!
三宅陽一郎『人工知能が「生命」になるとき』
ゲームAI開発の第一人者である三宅陽一郎さんが、東西の哲学や国内外のエンターテインメントからの触発をもとに、これからの人工知能開発を導く独自のビジョンを、さまざまな切り口から展望する1冊。詳細はこちらから。

この続きをみるには

この続き: 7,613文字 / 画像7枚

記事を購入

500円

期間限定
\ PayPay支払いすると抽選でお得に /

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!