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男と食 13 | 井上敏樹

平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。松茸の季節に京都を訪れた敏樹先生。友人と割烹の店で松茸料理を堪能するはずが、不運なことに店の料理にケチをつけるヤクザ風の男と遭遇。二人は険悪な雰囲気になりますが……?
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男 と 食  13      井上敏樹

先日、電車の中吊り広告をぼんやり見ていると『熱い地獄』とあった。よくある雑誌の広告である。若干の違和感を覚え、降り際によく見ると『熱い抱擁』が正解である。遠目だったので、『抱擁』を『地獄』と間違えたのだ。私は妙に納得した。『抱擁』と『地獄』は結構似ている。さて、世の中には困った事が色々ある。たとえばリュックを背負ったまま電車に乗る奴。不思議と彼らにはリュックを背負っているという自覚がない。車内が混雑している時など余計なスペースを取られるし、下手に向こうが動けばこっちはリュックが当たってよろめいたりする。困ったものだ。大体、リュックとは両手の自由が必要な時に使うものだ。登山とか戦争とかだ。まあ、人生は登山かもしれぬ。戦争かもしれぬ。百歩譲ってリュックを使うなら、電車に乗る際は網棚に乗せるか胸に抱いていただきたい。また、困ったもの、と言えばレストランで帽子を被ったまま、というのはどうなのだろう。先日は鮨屋のカウンターで帽子を被ったままの若者をみかけた。黒いソフト帽だったが、私的にあんまりあり得ない事だったので、一瞬、帽子形の髪形かと思ってしまった。食事をしながらのサングラスというのも、帽子と同じくらいあり得ない。大体、帽子もサングラスも日光から身を守るために使うものだ。登山とか、戦争とか。

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