見出し画像

男と食 14 | 井上敏樹

平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。以前、上海蟹にハマったことがあるという敏樹先生。上海蟹の老酒漬けを友人に振るうべく、大量の上海蟹を調理していたところ、目を離した隙に一部がナベから脱走。部屋中を探し回りますが、どうしても3匹見つからず……?
「平成仮面ライダー」シリーズなどで知られる脚本家・井上敏樹先生による、初のエッセイ集『男と遊び』、好評発売中です! PLANETS公式オンラインストアでご購入いただくと、著者・井上敏樹が特撮ドラマ脚本家としての半生を振り返る特別インタビュー冊子『男と男たち』が付属します。
(※特典冊子は数量限定のため、なくなり次第終了となります)

男 と 食  14      井上敏樹

先日、地図を買った。日本地図である。なんとなれば私は呆れ果てるぐらい地理に弱いからだ。昔から興味がなかった。自分は日本人だ、日本中、どこに行ってもそこは日本だ。それだけ分かっていればいいと思っていた。なにしろ広島は東北だと思っていたし、名古屋は『市』ではなく『県』だと信じていたぐらいである。友達と旅行の計画を立てていても『長野と愛媛に行きたい店がある。昼飯は長野、夜は愛媛でどうよ』などと言って顰蹙を買う始末だ。京都奈良間も三鷹から吉祥寺ぐらいの距離かと思ってタクシーに乗ったら一時間半もかかってしまった。これまではそんな感じで強引に生きて来たが、これではいかんと反省し、地図を買ったわけである。最近では夜寝る前に日本地図を眺めている。おかげで四国四県を言えるようになった。人間、幾つになっても勉強である。さて、今回は蟹の話。当然、蟹にも色々あるが、上海蟹の話である。この蟹は名前の通り中国で採れる淡水蟹でモズク蟹の仲間である。中国では蟹は海より川、川より湖のものが良いとされるが、これは上海蟹への讃歌だろう。中国では自動販売機で上海蟹を売っていて、まさに国民食と言っていい。私も、はまった。

ここから先は

1,823字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?