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既存建物バリューアップのための建築法規的アプローチ

建築基準法を主として色々活動していると、既存建物に関する問い合わせもかなり多いです。特に不動産屋さん系クライアントからはよく「既存建物のバリューアップ(価値向上)」に関するアドバイスを求められます。
建築法規を切り口に行える手法はそんなに多くはないのですが、今回は手法の1つになるであろう、「容積率の法改正」に着目したバリューアップ手法をご紹介します。

建物のボリューム(延べ面積)を規定する容積率は建築基準法第52条に規定されております。建築基準法はご存知の通り社会の変革に応じた法改正が適宜行われおり、来年以降も様々な法改正が既に告知されています。
容積率に関する内容も同様に法改正が行われています。察しの良い方はもうお気づきかと思いますが、『既存建築が着工された』以降の容積率に関する緩和系の法改正を活用し、余剰となった「延べ面積」にて不動産のバリューアップをはかる、というものです。まず具体的に容積率関連の法改正を整理します。

  • 1971年 容積率制限の全面適用(1964年に自動車車庫部分の容積率緩和は施行済)

  • 1977年 幅員12m未満の前面道路における容積率の制限強化

  • 1977年 総合設計制度の新設(容積率の特例)

  • 1987年 特定道路における容積率の緩和

  • 1987年 自転車駐輪場部分の容積率緩和(上限:駐車場部分を含み1/5)

  • 1994年 地階の住宅部分の緩和(天井が地盤面から1m以下にある地階の住宅部分の1/3を緩和)

  • 1997年 共同住宅の共用廊下・階段の緩和

  • 2012年 容積算定の延べ面積から備蓄倉庫部分(上限:1/50)・蓄電池設置部分(上限:1/50)・自家発電設備設置部分(上限:1/100)・貯水槽設置部分(上限:1/100)を緩和

  • 2014年 延べ面積からエレベーターの昇降路部分を緩和

  • 2015年 老人ホーム等の地階に対する緩和(上限1/3)

  • 2018年 老人ホーム等の共用廊下、階段の緩和

  • 2018年 宅配ボックス設置部分の緩和(上限:1/100)                                   (2023/1/23現在の情報)

このように「容積率関連」の改正も多く行われていることが分かります。
今では当たり前である共同住宅の共用廊下・階段の緩和も1997年(平成9年)改正です。意外に平成入ってからの施行されてるんだな、と思われる方も多いかもしれませんが既に26年が経過しております。ですので、築26年以上の共同住宅であれば廊下・階段部分を容積対象面積として扱っていた可能性が高いということになります(建築基準法の法改正は施行日と対象案件の着工日で旧法適用か改正法適用か異なりますので、施行日付近の案件は図面などを確認をする必要があります)

では、具体的にこれら容積率の法改正を活用して既存建物のバリューアップを行うか、ということについて具体例をあげたいと思います。

例えば1989年(平成元年・築34年)10階建ての事務所ビルがあるとします。1階部分が駐車場、2~10階が共同住宅。容積を目一杯消化し、1階部分を駐車場としている案件は肌勘として結構多い気がします。
では、「容積率」という観点でバリューアップするかということですが、まず現行法で容積対象外になる可能性がある部分を抽出します。今回1989年竣工とすれば、①2~10階の共同住宅の共用廊下・階段部分、②エレベーターの昇降路部分、③メールコーナー部分、④備蓄倉庫部分、等の部分を上げることが出来ます。
これら容積対象外とすることが出来る部分を駐車場部分にその延べ面積(容積対象面積)を移すことで、その部分を収益性が向上する店舗や飲食店へ変更することが可能となります。
従前は容積対象部分であったが、法改正で容積対象外となった部分の容積を活用するという考え方です。収益性を考えると1階駐車場を路面店に変える、ということが一番シンプルですが、派生の余地は十分あるのではないでしょうか。

もちろん規制は容積率に関する部分だけではありませんので、想定可能な注意点をご紹介します。

  • 用途変更部分の面積が200㎡を超えると確認申請が生じるため、既存建物が確認済証・検査済証が取得がない場合、用途変更を容易に行うことができない。

  • 確認申請が伴わない場合でも建築基準法等関係規定の制約は遵守させる必要がある。

  • もともと床面積が発生していない部分(ピロティ部分等)に用途を発生させてしまうと「増築」となり確認申請が生じ、手続きのハードルが格段に上がる。

  • 法改正の基準日と対象建築物の着工日との関係を把握し、対象の既存建物がどの時期の規定によって計画されているかを把握する必要がある。

  • 本手法を活用し駐車場をなくす場合、駐車場附置や条例等で駐車場をなくすことが出来ない場合がある。

  • 総合設計制度や地区計画認定等の許認可で建物の利用方法を用意に変更ができない場合がある。

  • 地階の駐車場についても同様の考え方は適用できるが、排煙等の避難規定の検討も重要になる場合がある。

建築は立地や計画内容によって、さまざま規制が生じております。行政庁によっても考え方がバラバラです。既存建物は確認申請図や竣工図等の書類が残っていないケースも多く、容易に判断することができません。ですので、しっかり調査し、時には行政庁等にヒアリングを行いながらバリューアップ検討を行ってください。

最後に横浜市では令和5年1月1日施行で横浜市建築基準条例、第4条の3「用途地域内における敷地の駐車施設」が改正されました。
共同住宅、長屋、寄宿舎及び下宿の用途に供する建築物の駐車場を附置が規定されているのですが、対象となる建物の規模が1000㎡⇒2000㎡に引き上げられました。また附置義務台数も全体的に引き下げられております。詳細は下記URLを参考として頂きたいのですが、この改正により共同住宅の駐車場部分をバリューアップできる可能性が出てきております。

私もそうですが、車自体を所有しない人が増えてきております。車所有の前提が崩れ、使われていない駐車場も多くあります。このようなライフスタイルの変更は今後も続き、それに伴い法律も少しずつ変わっていくでしょう。
建築も同様にニーズに応じ変更が可能である必要があります。今回紹介した手法も容易に行われ、ニーズに追従できればいいなと思っております。

以上、既存建物バリューアップのための建築法規的アプローチ「容積編」でした。

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