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禁断の領域

 去年の、夏の日差しが眩しい午後のことだった。平凡な日常が一変する、あの出来事が始まったのは。都心の自宅から離れ、旅先の静かな村に足を運んだ私は、そこで予想もしなかった不思議な体験に巻き込まれることになる。

 村の奥に存在する『制限区域』という看板が立つ場所が私の好奇心を刺激した。幼いころからミステリー小説に魅せられていた私は、その先に何があるのか、知りたくてたまらなくなった。夜が更け、人影の少なくなった頃に、その制限区域へ足を踏み入れた。

 そこには、かつて政府が極秘に行っていたというとある『実験』の跡地が広がっていた。実験とは、人間の意識をデータ化し、仮想現実の中で再生するというものだったが、失敗に終わり、実験体たちはゾンビのような存在に変わり果てたという噂があった。

 その夜、私が足を踏み入れた廃墟は、まさにその噂の現場だった。辺りには異様な静けさが漂い、廃墟の中には荒れ果てた機器や資料が散乱していた。そこに存在する何かを感じ取りながら、私は奥へと進んでいった。

 突然、背後から聞こえる足音に振り返ると、そこには一人の男性が立っていた。彼は私に向かって警告してきた。

「ここは危険だ、早く逃げろ」

 しかし、彼の目には恐怖とともに一種の狂気が宿っているように見えた。

 その時、周囲の廃墟がゆっくりと動き出し、ゾンビのような存在たちが現れた。彼らは実験の失敗によって生じた異形の存在であり、意識を持ちながらも制御不能の状態にあった。私は彼らの前に立ちすくみ、恐怖で身体が動かなくなってしまった。

 その瞬間、男性はポケットから銃を取り出し、私に渡してきた。

「これで彼らを撃て、自分を守るんだ」

 彼の声に、私は震える手で銃を握りしめた。迫りくるゾンビたちを撃退しながら、私は廃墟の奥へと逃げ込んだ。

 やがて、私は廃墟の最奥部にたどり着いた。そこには、古びたコンピュータがあり、画面には『最終プログラム』と表示されていた。私はそのプログラムを起動することで、この地に囚われた魂たちを解放することができると信じ、実行した。

 画面が一瞬、白く輝いたかと思うと、周囲のゾンビたちは次々と消えていった。安堵の息をついたその瞬間、男性の声が再び聞こえてきた。

「よくやった。これでようやく、私たちも自由になれる」

 私はその言葉に驚き、彼の方を振り返った。しかし、そこには誰もいなかった。彼はゾンビたちと同じく、この地に囚われた魂の一人だったのだろうか。その謎を解く間もなく、廃墟全体が崩壊を始めた。私は急いでその場を立ち去り、外の空気を吸い込んだ。

 家に帰った私は、あの出来事が夢だったのではないかと思うことがある。しかし、ポケットに残された古びた銃が、それが現実であったことを証明していた。あの男性は誰で、彼の目的は何だったのか。そして、私が解放した魂たちはどこへ行ったのか。

 この不思議な体験を経て、私は一つの決意をした。いつか、再びあの場所を訪れ、全ての謎を解き明かすことを。そして、この体験を基に、新たなノンフィクション小説を書くことを。彼らの物語を、多くの人に伝えるために。

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