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異界の森 一

境界の守護者

 去年の夏、私は不思議な体験をした。その時の記憶は今も鮮明に残っている。

 日常の喧騒から逃れるため、私は旅に出ることにした。行き先は、人里離れた山奥の小さな村。都心部の喧騒とは対照的な静寂が広がるその場所で、私は自分の好きな読書をしたり写真の撮影を楽しむつもりだった。

 その村には、古くからの伝承がある森があった。地元の人々はその森を『禁じられた森』と呼び、決して近づかないようにしていた。しかし、好奇心旺盛な私にとって、その禁じられた森は魅力的な森でしかなかった。

 村に着いた翌日、私はその森の入口に立っていた。森の中へと続く細い道は、まるで私を誘うかのように続いていた。私は一歩足を踏み入れた。足元には、無数の蟻が行進しているのが見えた。蟻の動きを見つめながら、私はさらに奥へと進んだ。

 森の中はひんやりとしていて、日差しもほとんど届かない。木々の間を歩くうちに、私は不思議な無数の足跡を目にした。それは、まるで誰かの足跡のようだった。振り返っても、誰もいない。しかし、確かに前方に足音は聞こえる。私は足跡の主と思われる足音を追いかけることにした。

 足音を追ううちに、私は険しい崖にたどり着いた。崖の向こうには、広大な景色が広がっていた。その美しさに見とれていると、再び足音が聞こえた。振り返ると、そこには一人の老人が立っていた。彼は私に微笑みかけて言った。

「ここは森の境界線だ」

「境界線?」

 私は驚いて尋ねた。老人は頷き言った。

「この森には、人間の世界と別の世界が交わる場所がある。君が見た足跡は、その境界線を越えた者のものだ」

 彼の言葉に、私はますます興味をそそられた。

 老人は私に、森の奥深くにある古い神社に案内してくれた。神社の前には、大きな石碑が立っていた。そこには、奇妙な文字が刻まれていた。老人はその文字を読み上げて話した。

「この神社は境界線を守るために建てられたものだ」

 その時、私は何かに気づいた。足元を見ると、蟻が一列に並んで進んでいた。蟻たちは神社の周りを行進し、まるで何かを守っているかのようだった。私は老人に尋ねた。

「蟻たちも境界線を守っているのですか?」

老人は微笑み、答えた。

「そうだ。蟻たちは、この森の秘密を知っている。そして君も、その秘密を知ることになるだろう」

 その瞬間、私は一陣の風を感じ、目の前が真っ白になった。

 気がつくと、私は村の入り口に立っていた。老人の姿も、神社も、全てが消えていた。しかし、足元には蟻の行列が続いていた。私はその光景に、不思議な感覚を覚えた。

 東京に戻った後も、私はあの森のことを忘れることができなかった。あの体験が現実だったのか、それとも夢だったのか。答えは未だに見つからない。しかし、私は決意した。再びあの森を訪れ、その謎を解き明かすことを。

 それから一年が過ぎた。再び旅に出る準備を整え、私はあの村へと向かった。村に着くと、変わらない静寂が迎えてくれた。私は再び森の入口に立ち、足を踏み入れた。

 今回は、前回とは違う何かが感じられた。足元の蟻たちが行進する姿が、まるで私を歓迎しているかのようだった。私は蟻の行列を追いかけ、再び森の奥深くへと進んだ。

 すると、再びあの神社が現れた。石碑の文字は、まるで私を待っていたかのように輝いていた。私は一歩一歩、慎重に神社へと近づいた。すると、突然、背後から声が聞こえた。

「待っていたよ」

 振り返ると、そこには一年前に会ったあの老人が立っていた。彼の目は優しく、何かを悟ったような表情を浮かべていた。老人は私に微笑み、言った。

「君はこの森の秘密を知る運命にある」

 その瞬間、私は一年前の体験の全てを受け入れ納得することができた。あの体験は夢ではなく、現実だった。そして私は、この森の秘密を解き明かすためにここにいるのだと。私は深呼吸し、再び神社の扉を開けた。

 その先には、予想もしなかった光景が広がっていた。そこには、まるで別の世界が存在していたのだ。森の境界線を越えた先には、新たな冒険が待っていた。

 私は胸の高鳴りを感じながら、一歩一歩、その世界へと足を踏み入れた。


 境界線の中に足を踏み入れた瞬間、目の前に広がる景色は一変した。木々は巨大化し、空は異様に青く輝いていた。空気は清冽で、聞いたこともない鳥のさえずりが響いていた。まるで異次元の世界に足を踏み入れたかのようだった。

 私は驚きと興奮で胸が高鳴った。ふと足元を見ると、蟻たちが私の進むべき道を示すように一列に並んでいた。私は蟻の行列に従い、慎重に歩を進めた。

 やがて、森の中に奇妙な建物が現れた。それは、石と木で作られた円形の建物で、壁には謎めいた絵や記号が描かれていた。建物の中心には、大きな石の台座があり、その上には古びた書物が置かれていた。

 私は書物を手に取り、ページをめくった。そこには、森の歴史と境界線の秘密が記されていた。この森は、異世界と現実世界を繋ぐ場所であり、異世界からの侵入を防ぐための結界が張られていることがわかった。

 私はさらに読み進めると、結界を守る役割を果たす『守護者』の存在に気づいた。その守護者こそが、私が出会った老人だったのだ。老人は、この森の秘密を知る者として、異世界からの脅威を監視し続けていた。

 その時、背後から再び老人の声が聞こえた。

「君は守護者としての役割を果たすためにここに来たのだ」

 振り返ると、老人は静かに私を見つめていた。

「君には、この森を守る使命がある。その力を君に授けよう」

 老人は手をかざし、私の額に触れた。その瞬間、私は体中に不思議なエネルギーが満ち溢れるのを感じた。異世界の秘密と力が私に宿ったのだ。私は守護者としての新たな役割を受け入れる決意を固めた。

「この森を守るために、君の力が必要だ」

 老人は言った。

「異世界からの脅威は絶えず迫っている。小さなものから大きな脅威まで様々だ。君の使命は、この森を守り、異世界との境界線を保つことだ」

 私は深く頷き、答えた。

「分かりました」

 老人は満足げに微笑み、言った。

「君ならきっとできる」

 その後、私は異世界との境界線を守るための訓練を受け、徐々に自分の力を理解し発揮できるようになっていった。森の中での生活は新しい発見の連続であり、毎日が冒険だった。異世界からの訪問者や、謎めいた生物との遭遇もあった。私はその都度、守護者としての役割を果たしていった。

 そしてある日、異世界からの大きな脅威が迫ってきた。その時、私は全ての力を振り絞り、結界を守るために戦った。異世界の力と対峙する中で、私は自分の成長を感じ、守護者としての使命に誇りを持つことができた。

 壮絶な戦いの後、老人は私に微笑みかけ言った。

「君は立派な守護者だ」

 私はその言葉に感謝し、これからもこの森を守り続ける決意を新たにした。

 こうして、私は異世界との境界線を守る守護者として、新たな冒険の旅を続けることとなった。森の中にはまだ多くの謎が残されており、その全てを解き明かすことが私の使命となったのだ。

 森の静寂の中で、私は新たな一歩を踏み出した。異世界の秘密を守り、未来へと繋ぐために。

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