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ちぐはぐな自転車行政(追記あり)

先日、日本平(といっても山の上である)という富士山と清水港の景勝地としてけっこう知られたところに自転車で登ってきた。ここは、地元のローディなどがよくヒルクライムの練習に使うところでもあり、自動車や単車に比べると自転車が通行していいルートは限られるが、週末を中心にかなりの数のサイクリストが訪れている。

山頂付近にはそこそこの台数が駐車可能な無料駐車場があり、その一角に単車の駐車場と自転車の駐輪場らしき一角も設けられている。ところがこの駐輪場、画像にあるような数カ国語表記の立派なモニュメントがあるにもかかわらず、アスファルトに枠線を引いただけで、サイクルラックひとつ置かれていない。

だから誰も利用していない。スタンドのないことが一般的なスポーツサイクルは、駐輪のしようがない。私は仕方ないのでモニュメントに立てかけておいたが、これでは固定物に施錠もできないし、ここから離れて、やや離れたところにある自動販売機に飲料を買いに行くこともできない。

この駐輪場を計画したのは、行政を核とした観光関係の〇〇委員会とかなのであろう。ここに駐輪して、最近できた「日本平夢テラス」のほうまで歩いて行ってほしいというような目論見だったのであろう。しかしそれはまったく絵に描いた餅であったようだ。だいたい、サイクルラックがあったとしても、高価なロードバイクをそこに置いて数百mも離れたところに歩いていくローディはいない。

スタンドのある自転車で獲得標高差約270mもある日本平山頂付近まで登ってくるような人も、実際にはほぼ皆無であろう。電動アシスト自転車で登板してくる人もたまにはいるのかもしれないが、常識的にはまず考えにくい。

そういうわけで、この日本平山頂付近駐輪場はほぼまったく機能していないのであった。せめてサイクルラックのひとつでもあれば、ヒルクライムの練習に精を出すローディの皆様方が休憩したり、交流したりする機会が生まれるのかもしれないが。

しかし断っておくが、私はいわゆるサイクルラック(サドルの前半部を引っ掛けて、吊るすタイプの駐輪器具)がベストと思っているわけではない。ないよりはマシだと思っている程度だ。私が乗っているような革サドル仕様のツーリング車ではあれはサドルを痛める心配があるから、積極的には使いたくないのだ。

スタンドのない自転車を立てかけて、なおかつ施錠することができるような駐輪器具としては、ある程度太さのあるパイプを曲げて、柵のようにした格好のもののほうが都合が良い。ただしこれには土木工事が必要になるので、低予算の場合にはサイクルラックを使用する例が多いというだけのことなのだ。私の記憶が正しければ、2000年頃に訪れたことのある米軍岩国基地では、私の推奨するようなパイプ型の駐輪器具が設置されていた。向こうではスタンドのない自転車が当たり前だからである。

静岡市は太平洋岸自転車道などがかなりの距離整備されていて、市内にも自転車レーンなどが一部で実用に供されているのだから、自転車にとって冷淡な行政というわけではない。調べてみると、観光的な自転車施策に関してもそれなりの広報と情報発信を行っており、市内でサイクルラックを設置している商業施設などのリスト化とマップ化も行っている。

しかし実際には日本平山頂の駐輪施設などに見るように、いちばん中心となってもおかしくないような利用密度の高いところで、「スポーツサイクルにとって必要な設備」がまったく分かっていない整備が行われているのだ。

そう言ってはなんだが、「自転車など、この程度で充分」というような姿勢が見え隠れするのである。企画段階でちゃんとしたリサーチが行われていれば、少なくとも実際に自転車で日本平に登るようなサイクリストらにヒアリングを行っていれば、こんなことにはならなかったであろう。

そういうことになりやすいのは、悪意はないとはいえ、この事業に関わった行政や委員会や建設会社の中に、自転車のことが分かった人が誰もいなかったからである。具合が悪いのは、そういう人々に限って「自転車のことなど、われわれはよく分かっている」と思っていることなのだ。自転車でヒルクライムをしたことも、1日100km走ったことも、旅をしたこともないのに。

悪意がないというのは、罪がないということではない。無知は罪なのだ。そういう人たちが寄ってたかって、こういう、モニュメントだけ立派な駐輪場を造ってしまったのである。静岡市を代表するような景勝地にかような無意味な駐輪場があることは、この街の自転車行政の広報に関して大きなマイナス要因でしかない。しかもこれには税金が投入されているのだ。残念なことである。

※追記1/その後、ローディの先輩から、この駐輪場から離れたところの木陰付近に、サイクルラックが置かれているとの情報をいただいた。一定の利用者もおられるそうだが、近くの店舗からは少し離れていて、現時点では当該ラックを取材していないので、誰が設置したのか不明である。静岡市がその自転車施策を広報しているサイト『しずおかサイクルシティ』には、こうしたサイクルラックを設置している店舗や施設などを「自転車の駅」として、マップで整備状況や備品などをリストアップしているが、現状では日本平山頂付近のこのサイクルラックは「自転車の駅」としては、挙げられてはいないようだ。いずれにしても、駐輪場からは離れたところに置かれているので、駐輪場の利用者はやはり相当に限られているのは確かである。

<下の画像のさらに下に「追記2」あり>

モニュメントだけ立派な、スタンドのないスポーツサイクルにはほぼ無意味な日本平山頂付近の駐輪場。自転車の街づくりをしているとはとても言い難い内容だ。

※追記2/さきほど(2024年6月5日午前11時過ぎ頃)、車で現地に出掛けて状況を確認してきたところ、件の何もない駐輪場から70mほど離れたところに確かにサイクルラックが三つ設置されていた。しかしここは駐輪場と指定されているわけではなく、駐車場の脇のほうにある一種のグレーゾーンである。ただここは木陰があり、トイレと店舗も隣接しており、店舗が置いたと思しきテーブルや椅子も近くにあるので、休憩地としてはここのほうが適切であった。このサイクルラックのことを教えてくれた先輩によると、混んでいるときはラックは三つあっても足りないくらいだそうで、充分に活用されていると言ってよいであろう。

誰が設置したのかは不明であるが、事実上の駐輪場となっているサイクルラックの周辺。ランドナーは脚の部分に立てかけることになろう。地面に固定されているかどうかは確認をし忘れた。

これに対して、やはり「公式」の駐輪場のほうには活用されているような雰囲気がなかった。何度も書いているようにサイクルラックもなければ、トイレや店舗からも離れていて、木陰もないからである。「自転車」というモニュメントだけは立派なんだけどねえ。法的規制などさまざまな事情があってこういう具合になってしまったことも充分に拝察できるが、使われることのない駐輪場はやはりうすら寂しいのであった。

件の駐輪場の全景。スタンドのない自転車は止めようがない。いささか残念な造りである。

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