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オンライン作品を発表してみたり、配信公演の舞台監督をしてみたり感じた諸々。

2020年2月以降、劇場での作品発表というのが難しくなり、緊急事態宣言が明けた辺りから段々と、配信公演が増えてくるようになりました。

更に、その配信公演が、「完全リモートで制作し、オンライン発表されるもの」と「制作、上演は劇場などで行い、オンライン発表」の二分化される様相を呈していました。6月頃までの話です。

しかし、上演に関してのガイドラインの制定などが進み、蓋を開けてみると、その殆どが後者の形態か、もしくは客席を半分しての劇場公演、の二分化となってしまいました。

「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う京都市文化芸術活動緊急奨励金」に申請する際、「オンライン舞台監督という役職が今後は出てくるだろう」と大きくのたまっていた過去の自分が恥ずかしくなる、先見の明のなさである。


とはいえ、ありがたい事に配信公演などの舞台監督としては、この9月までにいくつか現場を担当させていただけたので、今回はそのレポートをここに記す。

未曾有の危機の中で発表された作品と、その現場で得られた知見を、舞台監督の目線から共有できたらと思う。


①人間座スタジオ

https://www.youtube.com/channel/UCvx0e_l-fvaj5LLDkmzdsqw/featured

京都は下鴨にある、人間座という劇団のスタジオ。このスタジオやスタジオについているスタッフの元、9月現在までの間に6つの作品が配信された。

私はその内3つの配信に参加した。

この人間座スタジオは、元々は劇団「人間座」のスタジオであったが、近年、京都の劇団が発表の場として利用していた。しかし、2020年、観客を入れての上演会場としての利用継続は困難となり、それを憂いた有志によって、配信スタジオへの移行が進んでいる。

なので、これらの作品の配信に関しては、人間座スタジオ側のスタッフ主導で行われている。


8月7日に行われた、努力クラブ・無観客配信公演「ゲームしてる彼氏のとなりの」では、舞台監督として参加。そこで気づいたことは『演出家の意図を、映像の画角内でどこまで汲み取れるか』ということだ。

この作品は、男女のカップルが、男の部屋でダラダラして、他愛もない会話をしているだけ、という作品だ。

そこで演出としては、見知らぬカップルの部屋を覗き見ている感覚、というのを鑑賞者に与えたいという狙いがあり、それを映像でどう見せられるか、という壁にぶつかることになる。

そこで、撮影チームと相談し、隠しカメラのような位置取りで撮影することとなった。

普通ではありえない、ほぼ床置きの高さにカメラを固定し、床をなめるような画角にしたのだ。また、写っているのは、終始二人の背中ばかりだ。

しかし、こうすることで、劇場での上演とはまた違った体感で「ナマっぽさ」というのを伝えることに成功した。



②京都学生演劇祭2020

毎年、夏に企画されている京都学生演劇祭。10年目となった今年はTHEATRE E9 KYOTOにて実施が予定されていた。

しかし、8月上旬に、劇場との協議の結果、無観客配信公演になることが決定した。

この演劇祭はコンペティションの側面もあった為、配信公演なら配信公演での作品作りに舵を切る団体も出てきた為、舞台監督を務めていた筆者は、各団体がどのようにカメラと相対するかをに気を配る必要があった。

その中で特に必要だったのが、照明を調整する際に、サブモニターを用意することだった。

照明は、演劇作品を彩る、とても重要なファクターの一つであるわけだが、カメラを通して映像にした場合、光の繊細さというのがどうしても欠けてしまうところがある。

具体的には、各種機材の性能にもよるが、薄暗いところの写りは想像以上に見えにくくなり、逆に明るいところは白飛びする可能性があるということだ。

サブモニターを通してそれを確認しながら照明を決めていかないと、肉眼で見て想定していた画が鑑賞者に届かないということがある。逆説的に考えると、それだけ人間の目が高性能ということがよく分かる。

ただ、サブモニターも、あくまでも配信前の映像である為、配信すると更に精細さに欠けてしまう。時間が許すのならば、一度、テスト配信して最終確認するのが良いだろう。


③リーディング配信「30分、1人で大体ハムレット」

最後に紹介するのは、筆者が制作したリーディング配信「30分、1人で大体ハムレット」だ。

こちらのYouTubeのリンクは、スタジオにて行われているリーディングを生配信した時のアーカイブだ。

この作品では、「OBS」という配信アプリをしようし配信している。

この「OBS」というのは、カメラで撮影した映像をただ配信するだけではなく、サウンドや画像の出力なども行える為、今作では私が配信の設定を行いながら、映像にテロップを重ねる演出を随所で行った。

ここでの気付きは、俳優にも配信映像が見えるようにすることだった。

このテロップの演出は、オペレーター(=筆者)のPC上では見えるものの、それが配信上でどのように写っているかということは、俳優側には一切見えない。しかし、テロップが消えたタイミングで次のシーンが始まる、などの段取りもあった為、オペーレーター側から合図を送る必要があった。しかしそれでも不安になるのが、舞台上に置かれている者の心理でもある為、映像には写らず、なおかつ俳優に見える位置にサブモニターを用意し、配信に使っているPCの画面をミラーリングすることで、テロップのタイミングを実際に映像を見て判断ができる状態にした。

もちろん、オペーレーター側からの合図も送るのだが、二重にかけていくことで保険とした。

配信といえども生である以上、劇場公演と同じでミスは許されないのである。

ただ、多くのことがいくつかの機材を一所にためて行える為、今作は出演以外はすべて筆者が行った。最低限スタッフが1人いれば配信公演ができるということが、この制作によって分かった。(もちろん機材の知識や経験が必要にはなってくるが)



●まとめ

以上が、この9月までの間に経験した配信公演での、特筆すべき知見であった。

コロナが完全収束するまでの間は、今後も配信公演は無くなりはしないだろう。おそらくその多くは、劇場上演+配信という形態をとるだろう。

そうなった時、舞台監督としては配信スタッフとの連携を上手くとれるか、というのがとても重要になってくる。

なぜなら、カメラで抜き取られた作品は、劇場で行われているものとは全くの別物であるからだ。であるならば、2作品同時上演していると言っても過言ではない。

その為にも、私達はテクニカルスタッフは、映像配信への知見を広げていくというのは急務であることは言うまでもない。

このレポートは、その為の第一歩である、ということを記して、ひとまずはここで筆を置きたいと思う。

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