見出し画像

【徒然なるままに】#109

 グラミー賞の最優秀インストゥルメンタル・コンポジションで、故ライル・メイズの『Eberhard』という作品が選ばれたことをパット・メセニーのFacebookで知った。
昨日はリハーサルだったのだが、前の晩にダウンロードしたこの楽曲をリハーサル場所への移動中繰り返し聴いていた。13分くらいの長さの作品だ。

 前にもこのnoteに書いたが、ライルさんの音楽は昔良く聴いていて、最初はパット・メセニー・グループ(パット・メスィーニという書き方が本来の英語の発音に近いと確かピーター・バラカンさんが言っていたような)でのオーバーハイムやピアノで、そしてその後ソロ・アルバムを、という具合である。もっともメセニー・グループのアルバム『ファースト・サークル』とソロのファースト・アルバムである『心象風景(原題:Lyle Mays)』は同じ日に人から聴かせてもらったので、知ったのはほとんど同時だったのだが、『心象風景』を自分で買ったのは大分後であり、そのときは『ファースト・サークル』を借りて帰ったのだった。高校生の頃だ。
 何というか、彼の奏でるピアノやシンセの響き(そのニュアンス、ボイシング、音色の選び方など)から音楽の中での美意識のようなものを沢山学んだように思う(上手く取り入れられているか自信は全くありませんが)。

遺作『Eberhard』はエバーハルト・ウェーバー(ドイツのベーシスト)に捧げられた作品。元々はマリンバ奏者、ナンシー・ゼルツマンの主催するフェスティバルへの委嘱作品で2009年に作曲されたもので、2019年に大幅にライル・メイズ本人により加筆されたものが本バージョンだそう。亡くなる数ヶ月前に録音されたらしい。
サウンドはエバーハルト・ウェーバーからの影響が散りばめられながら、ライヒのような繰り返すフレーズなども聴こえてくるが、それらの音をライルさんが自身のセンスでまとめ上げた作品だと思った。演奏にもベースで参加したスティーブ・ロドビー(パット・メセニー・グループでもベースを担当)がコメントしている。
(下記、今回のnoteを書くにあたって参考、引用させていただいたJazzTokyoからの抜粋です)
「ライルの健康状態は2019年に悪化し、それと同時に、ライルは<Eberhard>を録音しようと決めました。この曲をあらゆる点から加筆拡張し再構築しました。」「その結果がこの録音で、亡くなる直前にライルに聴こえていた音を聴くことができます。それはこのアルバムがライルの音楽の最終形であるという意味ではなく、もしも彼が長生きできたら、さらに新しいプランを考え実行していたことでしょう。」(JazzTokyo Jazz and Far Beyond このディスク2021海外編#04 『Lyle Mays / Eberhard』より転載。https://jazztokyo.org/features/my-pick/my-pick-2021/post-72678/)

自分もこの楽曲を聴いて、ライルさんが生きていたら、これが終わりではなく、さらに新たな方向へと進んで行ったのかもしれないと思った。

彼のソロ・アルバムは、セカンドの「ストリート・ドリームス」までしか持っていなかった。音楽出版社でアルバイトをしていたときに『ソロ - 残響(原題:Solo: Improvisations for Expanded Piano)』のサンプルが届いたので聴いたが、そのときにはあまりピンと来ていなかったので買わなかった。当時の自分としては違うものに興味が向いていたのだと思う。ある時期からジャズ・フュージョンを全く聴かなくなったのだった。
YouTubeでその『ソロ - 残響』を今聴いてみると、面白いアルバムだと思った。坂本龍一がMIDIピアノでやっていたのとはまた違うアプローチだった。

久しぶりに「ストリート・ドリームス」を聴くと、キーボード・マガジンで収録曲「Chorinho」の楽曲分析を読んでいた頃の高校生の自分を思い出した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?