マスドライバーによって天体の大気中に射出される物体に人間が搭乗可能となる条件

―論   文―

マスドライバーによって天体の大気中に射出される物体に人間が搭乗可能となる条件
Conditions That Allow Humans to Board the Object Ejected into the Atmosphere of a  Celestial Body by a Mass Driver

脇 宏 樹*1
Hiroki WAKI

Key Words: Projectiles, Fluid Dynamics, Mass Driver, Launch System

 Abstract: Study of physical conditions that allow humans board on the object ejected into the atmosphere of a celestial body by a mass driver, based on the models of mass drivers installed on celestial bodies and the laws of physics. As the object ejected by the mass driver rises in the atmosphere, values of the atmospheric density and the airspeed of the object both becomes smaller. So drag that the object receives from the atmosphere gets maximum value at the ejection point. If the formula a=ρv0^2SCD/2m≦A is completed, deceleration due to drag will be a value that can maintain health of the humans board on the object.

● マスドライバーによって天体の大気中に射出された物体が大気中を上昇するにつれて,大気の密度と物体の対気速度は小さくなるので,物体が大気から受ける抗力Dは,射出点において最大値となる.  

m≧ρv0^2SCD/2A (36)
であれば,
  a=ρv0^2SCD/2m≦A (5)
となり,物体に搭乗した人間が健康を維持できる値になる.
したがって,人間も物体に搭乗することができる.
 さまざまな天体に設置されたマスドライバーによって人間が搭乗する物体を宇宙に打ち上げることが理論的に可能であることがわかった.

*1アマチュア研究者

記号の説明
 m: 物体の質量(kg)
 v0: 物体の初速(m/s)
 S: 物体の代表面積(m^2)
 CD: 物体の抗力係数                 
 ρ: 射出点における天体の大気の密度(kg/m^3)
 A: 人間が健康を維持できる最大加速度(m/s^2)
 G: 地球の標準重力加速度(9.806 65m/s^2)●1)
 l: マスドライバーの長さ(m)
 D: 物体が大気から受ける抗力(N)
 a: 抗力による物体の加速度(m/s^2)
 a2: マスドライバーによる物体の加速度(m/s^2)
 t: マスドライバーによる物体の加速時間(s)

1. はじめに

 現在,宇宙に人間や物資を打ち上げる方法には,化学ロケットが用いられている.筆者は,別の打ち上げ方法について考察し,1988年に特許●2)を出願した.そして2022年に「マスドライバーによって天体の大気中に射出された物体に大気から及ぼされる抗力による減速の加速度は,物体の質量を大きくすれば,人間が搭乗可能な値になる」という仮説を得た.そして,その仮説を検証するために,研究を行った.

2. 研究の方法

地球と月と火星に設置されたマスドライバーのモデルを考え,物理法則に基づいて各物理量の関係を求めた.

3. 研究の結果と考察

 マスドライバーによって天体の大気中に射出された物体が大気中を上昇するにつれて,大気の密度と物体の対気速度は小さくなるので,物体が大気から受ける抗力Dは,射出点において最大値となる.流体中の物体が流体から受ける抗力の式
  D=ρv^2SCD/2 (1)
よりDの最大値は  D=ρv0^2SCD/2 (2)
  D=ma (3)
 ∴aの最大値は
  a=D/m (4)
 ∴a=ρv0^2SCD/2m (5)

 ∴A≧ρv0^2SCD/2m (6)
であれば
人間も物体に搭乗することができる.

ρ=1.2250 (高度0km気温15℃気圧1.013 25×10^3hPaでの大気密度)●3)
v0=10^4 S=10 CD=0.2
とすると
  a=12 250×10^4/m (7)
A=3Gとすると 
  m≧4163.8×10^3 (8)
であれば
人間も物体に搭乗することができる.
v0=√2×10^4とすると
  a=24 500×10^4/m (9)
A=3Gとすると
  m≧8327.7×10^3 (10)
であれば
人間も物体に搭乗することができる.


第1図 (7) (9)

月の質量 7.346×10^22 kg●4)
月の赤道半径 1737.4×10^3 m●5)
万有引力定数 6.674 30×10^-11 N m^2 kg^-2●6)
より

月の第1宇宙速度は
1680 m/s

月の第2宇宙速度は
1680√2 m/s

月の大気の組成●7)~●9)

ヘリウム4 (4He) 40 000 個/cm^3 
相対原子質量 4.002 603 254 13
密度26.58591629552013×10^-20g/cm^3

ネオン20 (20Ne) 40 000 個/cm^3
相対原子質量19.992 440 176 2
密度132.7929118428643×10^-20g/cm^3

水素 (H2) 35 000個/cm^3
分子量1.007 94x2=2.015 88
密度11.71606623157045×10^-20g/cm^3

アルゴン40 (40Ar) 30 000個/cm^3
相対原子質量 39.962 383 1238
密度199.0772951833162×10^-20g/cm^3

ネオン22 (22Ne) 5 000個/cm^3
相対原子質量21.991 385 110
密度18.25877705821011×10^-20g/cm^3

アルゴン36 (36Ar) 2 000個/cm^3
相対原子質量35.967 545 105 
密度11.94510275943799×10^-20g/cm^3

メタン (CH4) 1 000個/cm^3
分子量12.010 7+1.007 94x4=16.042 46 密度2.663913156357375×10^-20g/cm^3

アンモニア (NH3) 1 000個/cm^3
分子量14.006 7+1.007 94x3=17.030 52 密度2.827984379428554×10^-20g/cm^3

二酸化炭素 (CO2) 1 000個/cm^3
分子量12.0107+15.9994x2=44.0095 密度7.30794940767874×10^-20g/cm^3

アボガドロ定数 6.022 140 76×10^23 mol^-1
●10)
より
月の大気の密度は 4.131 76×10^-15 kg/m^3
ρ=4.131 76×10^-15
v0=1680
S=10 CD=0.2
とすると
a=116 615×10^-13/m (11)
A=3Gとすると  
m≧3.963 81×10^-10 (12)
であれば人間も物体に搭乗することができる.

v0=1680√2とすると
a=233 230×10^-13/m (13)
A=3Gとすると
  m≧7.927 61×10^-10 (14)
であれば人間も物体に搭乗することができる.


第2図 (11) (13)

 人間の質量は上記の値を越えるので月では人間だけをマスドライバーで軌道に打ち上げることが理論的に可能である.

ρ=0.020(火星の大気密度)●11) v0=4×10^3 S=10 CD=0.2
とすると
  a=320 000/m (15)
A=3Gとすると  
m≧10.88×10^3 (16)
であれば人間も物体に搭乗することができる.

v0=4√2×10^3とすると
  a=640 000/m (17)
A=3Gとすると  
m≧21.75×10^3 (18)
であれば人間も物体に搭乗することができる.


第3図 (15) (17)

 長さlのマスドライバーによって物体を一定の加速度a2で時間t加速して速度v0で射出したとすると
  v0=a2t (19)
 ∴t=v0/a2 (20)

  a2≦A (21)
であれば人間も物体に搭乗することができる.
v0=10^4とすると
  t=10^4/a2 (22)
v0=√2×10^4とすると
  t=√2×10^4/a2 (23)
v0=1680とすると
  t=1680/a2 (24)
v0=1680√2とすると
  t=1680√2/a2 (25)

 (24)と(25)より,マスドライバーによる物体の加速度が同じ値であれば,物体を月の第2宇宙速度に加速するマスドライバーの加速時間は,物体を月の第1宇宙速度に加速するマスドライバーの加速時間の√2倍になる.

v0=4×10^3とすると
  t=4×10^3/a2 (26)

v0=4√2×10^3とすると
  t=4√2×10^3/a2 (27)



第4図 (22) ~ (27)

  l=a2t^2/2 (28)
 ∴l=v0^2/2a2 (29)

v0=10^4とすると
  l=5×10^7/a2 (30)

v0=√2×10^4とすると
  l=10^8/a2 (31)

v0=1680とすると
  l=14 112×10^2/a2 (32)

v0=1680√2とすると
  l=28 224×10^2/a2 (33)

 (32)と(33)より,マスドライバーによる物体の加速度が同じ値であれば,物体を月の第2宇宙速度に加速するマスドライバーの長さは,物体を月の第1宇宙速度に加速するマスドライバーの長さの2倍になる.

v0=4×10^3とすると
  l=8×10^6/a2 (34)

v0=4√2×10^3とすると
  l=16×10^6/a2 (35)


第5図 (30) ~ (35)

4. 結論

  m≧ρv0^2SCD/2A (36)
であれば,
  a=ρv0^2SCD/2m≦A (5)
となり,マスドライバーによって天体の大気中に射出された物体が大気から受ける抗力による物体の加速度は,物体に搭乗した人間が健康を維持できる値になる.
したがって,人間も物体に搭乗することができる.

5. まとめ

 さまざまな天体に設置されたマスドライバーによって人間が搭乗する物体を宇宙に打ち上げることが理論的に可能であることがわかった.

 マスドライバーの実現には,天体の第1宇宙速度以上まで物体を加速できる加速装置と,天体の大気から及ぼされる抗力と空力加熱に耐える飛翔体が必要である.

 人類と地球の生命が宇宙に生活の場を広げ,宇宙のさまざまな存在と助け合いながら生きていく未来を願って,努力したい.

この研究と論文執筆にあたり,ご迷惑をおかけした皆様方に心から謝罪申し上げるとともに,家族,親類,励まして下さった皆様方に助けていただいたことを深く感謝します.

参考文献

  1. 標準重力加速度はNIST PHYSICAL MEASUREMENT LABORATORY : CODATA Internationally recommended 2018 values of the Fundamental Physical Constants
    から参照
    https://physics.nist.gov/cuu/Constants/index.html

  2. 特開平02-006297 飛行体射出用システム
     脇 宏樹

  3. 国立天文台: 理科年表2022年版, 丸善出版, 2021, pp.333.

  4. 国立天文台: 理科年表2022年版, 丸善出版, 2021, pp.78-79.から算出

  5. 国立天文台: 理科年表2022年版, 丸善出版, 2021, pp.78.

  6. 国立天文台: 理科年表2022年版, 丸善出版, 2021, pp.380.

  7. Williams,D.R. : Moon Fact Sheet, NASA Goddard Space Flight Center
    https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/moonfact.html

  8. 相対原子質量は 国立天文台: 理科年表2022年版, 丸善出版, 2021, pp.486-487.から参照

  9. 分子量は 日本化学会 原子量委員会 原子量表(2010)から算出
    https://www.csj.jp/international/atomictable2010.pdf

  10. 国立天文台: 理科年表2022年版, 丸善出版, 2021, pp.381.

  11. Williams,D.R. : Mars Fact Sheet, NASA Goddard Space Flight Center https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/marsfact.html

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