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深夜食卓

誰でも夜中にパッ、と目が覚めてしまう経験をした事はあるだろう。


暗闇の天井を見つめながら、枕の下に手を突っ込んでスマホをまさぐり、画面を開く。

真っ白な光が目に刺さって痛い。

ぼやけた思考で画面を見ると

2:22

ゾロ目だ。

だからといって、寝起きのテンションで「よっしゃ!」なんていう訳もなく、見る事もなく、ただ、ぼーっと画面を眺める。

ふと、尿意を覚えトイレに行き用を足す。それが本当の尿意なのか、それとも習慣的なものなのかはわからない。

用を済ますと、キッチンに行って蛇口を捻り、水を1杯飲む。

キッチンは静まりかえっていて、冷蔵庫が時折、ぶーーんと思い出したかのように唸りをあげる。

世界はしっかりと眠っていて、自分だけが起きている。

空白の時間。

鏡に映る自分はずいぶんシケた面をしている。そりゃそうだ。10分前まで夢の中にいたのだから。

目の悪くなった犬の為に、玄関の灯りだけは夜中もつけっぱなしにしていて、柔らかな黄色い光がリビングを照らしている。

そんな中、ぼくは椅子を引き寄せて座り、派手な色をしたライターで煙草に火をつけ、アレコレと考える。

さっきまで見てた夢の事。

昔、働いていた職場の同僚の事。

車検の事。

とりとめのない考えが浮かんでは、煙草の煙と共に換気扇に吸い込まれていく。

一本吸い終わる頃にはもう全て灰になっていた。

「ねむっ」

まるで自分に言い聞かせるように、独り言を呟いてベットに戻り、眠ろうとするが、なかなか寝付けない。

眠い時には、意識する事もなくあっさり眠りに落ちるのに、寝付けない時はどうやれば眠れるのかがわからなくなって、ただベッドの上で寝返りをうちつづける。

横浜のbarにいたメキシコ人女性が言った言葉が頭をよぎる。

「眠れない時は眠らなきゃいいのよ。無理して眠る必要ある?」

ある。明日仕事だもの。

また枕の下をまさぐりスマホを取り出す。

見たいものなどない。

それでも、見てしまう。

つまらない芸能ニュースや、コロナの噂、おもしろ動物動画。

真っ暗な部屋で、青白い光に照らされたぼくの顔は客観的に見たらひどく不健康なものだろう。一体どんな表情をしているのだろうか。おそらく、無表情を絵に描いたような顔をしているにちがいない。


気付くと、外から鳥の鳴き声が聞こえてきた。鳥が鳴きだすのは、午前4時あたりだ。

ぼくはスマホを枕にしまい、目を閉じて、顔に腕をのせる。

眠れない。

眠り方を忘れてしまった。

羊を数えるという古典的な手法を試みるが、イメージの中の羊はとても早く、数える前にピョンピョン柵を越えていってしまい、とても数える事ができない。

そんな時、楽しかった事や嬉しかった事など、とにかく自分の中で良い思い出を記憶の底から引っ張りだしてきて、それを見返す事にする。その記憶の中の甘い世界に入ると心がリラックスするのか、ようやく睡魔が迎えにきた。

鳥の鳴き声を聞きながら、ようやく訪れた睡魔。カーテンの隙間からは夜明けがゆっくりと忍び込んでくる。

このままずっと眠っていたい。

そう思いながら、意識が遠のいていく。


















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