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甘美な吐息

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視界は隅の方からしだいに暗くなってきて、意識が徐々に遠のいていく。運転席にいる彼女は泣き出しそうな表情でどうしたらいいかわからずオロオロしている。ついさっきまで笑っていたのに。

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こんなところで死ぬわけにはいかない。こんなところで。

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ハイチュウをまるごと一気に食べて喉につっかえて死ぬなんて、産んで育ててくれた親に申し訳ないし、友達にも

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「まぁ、アイツらしい死に方だったな」

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なんて、葬式で納得されたくない。

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呼吸ができず徐々に遠のいていく意識の中でぼくは強く思った。

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(嫌だ。こんなシチュエーションで死にたくない。)

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「カッ、カッ、、、カッ」

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声にならない声をあげ、まさに死に物狂いで喉の奥に指を突っ込みまさぐる。何度目かで引っかかっていたどでかいハイチュウの塊を探りあて思いっきり引き抜いた。

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その瞬間、酸素を含んだ甘美な空気が肺に一気に流れ込み、激しく咳き込みながらも意識を取り戻した。

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助手席からころげ落ちるように降りてひとしきり咳き込むと、ぼくは汚れた唾液でベチャベチャに汚れた口と指を袖で拭きながら彼女に向かってこう言った。

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「あー、死ぬかと思った」

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その時の彼女の顔には心配と安堵と呆れが同時に浮かんでいた。いや、その表情は次第に呆れ顔が支配しだしていた。

(この男、予想してたよりもっとアホだった)

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補足説明するとハイチュウではなくて「ガブリチュウ」という商品でハイチュウがうまい棒のように棒状になった商品です。ぼくはそれを一本まるごと口にいれて「モッチャモッチャ。んー!口の中がすっごいジューシー!!」と喜んでいた後に起こった悲劇です。皆さま、くれぐれもそんな馬鹿な事はしないようにしましょう。


#こんな時だからこそくだらない話でも


#当時22歳くらい


#あれで死んでたら


#と時々考える


#パラレルワールド

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