トイレワインを作る
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スギモトはソファーと一体化しながら配信される映像をダラダラと観ることもなく、眺めていた。延々と流れ続ける映像の洪水の中でスギモトの意識はここにあるようでここにはない。一種の瞑想状態に近いものといっても過言ではないだろう。
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その流れる映像の中で刑務所内で作られる密造酒「pruno」別名「トイレワイン」というものがあるのを知った時、意識がここ(現実)に戻ってきた。
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その作り方はとても簡単でフルーツ、ケチャップ、砂糖をゴミ袋に入れ、それを揉んで殴る。
そこにパンを詰めた靴下(!!)を入れて後はベッドの下に4,5日置いておけば完成するという。
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これを見たスギモトはいてもたってもいられなくなり、実践してみる事にした。
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どうせ、何もしないで休日がダラダラと過ぎてしまうんだ。何か一つでも建設的な事をしよう、と。果たしてその行為が建設的であるかどうかは非常に疑わしいところだが、スギモトにとってそれはどうでもいい事だった。
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スーパーに行き材料を揃えた。どうせなら本場の味に近づけたいと、ゴミ袋と使用済みの靴下を洗って使う事にした。
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切ったフルーツを入れたゴミ袋をモッチャモッチャと揉む。穴をあけないように慎重に慎重に。
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そのゴミ袋にパンを詰めた靴下を投入する。
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簡単だ。非常に簡単だ。
スギモトは満足してソファーに戻り、また映像の洪水の世界に没入した。
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それから何日かしてベッドの下から音がする事に気付いたスギモトがゴミ袋を取り出してみると、袋の中で発酵が進んでいるらしく、シュワシュワと可愛らしい音を立てている。
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(ふふふ、まるでペットみたいだな)
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スギモトは袋をまたベッドの下に戻し満足げな表情で眠りについた。
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五日が過ぎ、発酵のシュワシュワ具合も激しくなり、ゴミ袋もパンパンに張っている。
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「そろそろ、かな」
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スギモトはその白濁した液体をコップに注いで一気に飲み干した。
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ひどく不味い。まるでトイレの床みたいな味じゃないか。ああ、そうか「トイレワイン」とはこのことか。と独り合点したスギモトだったが、なにか様子がおかしい。
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視界がぐるぐる廻るし、吐き気がする。こ、これはアルコールじゃない気がする。
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スギモトの考察どおり、袋内で繁殖したのはイースト菌よりボツリヌス菌の方が多く、それを一気に飲んだスギモトはもはや立っている事すら出来なくなり、瀕死の状態で救急車を呼ばなくてはならなくなった。
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その後、一命はとりとめたものの、酒税法違反で32万円の罰金を課せられる事となった。
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そんなスギモトだが、この件以来、酵母菌に興味を持ち日々研究を続け、ついに「スギモト酵母」
という会社を起こしたとか起こさなかったとか、、、。
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