見出し画像

情景描写がだるいって? キャラ立てが二行でできる便利テクニックですよ?

情景描写って何ですか?

 情景描写は、景色の情報を描いて写すことです。漢字そのままですね。
小説は文字しかありません。なので、景色の情報を描いて写さないと、ここがどこか、どういう状況か読者さんに伝えることができません。

作家はこんな風に情景描写をしている。

 まずはじめに、作家たちがどんな情景描写をしているか、引用してみましょう。

ライトノベルから。
(引用はじめ)
 しつこい暑さが、日本全土を覆っていた。限海市も、午前九時から三十度超えの猛暑だ。昼間になって、なお猛威を振るっている。 同心円高校の校舎裏に建てられた二階建てのクラブハウスも、むっとした暑気に炙られて蜃気楼が立ちそうになっていた。(「高一ですが異世界で城主はじめました」鏡裕之著)(引用おわり)
 HJ文庫で長期シリーズになっている小説です。夏休みのうんざりするような暑さが伝わってきますね。(アマゾンアソシエイトにより収入を得ています)

時代小説から。

(引用はじめ)
 深夜になっても、いっこうに涼しくならなかった。大きく息をすると、吐き気を覚えるくらい、大気は蒸れていた。
 梅雨が明け、五月(旧暦)も後半に入っている。暑いのは当たり前と誰しも思うが、我慢ならないのは湿気だった。(「妻は、くノ一」風野真知雄著)(引用終わり)
 旧暦の五月後半というのは、今でいうと六月末から七月はじめです。じめじめとした暑さが伝わってきます。

純文学から
(引用はじめ)
 蝉の声が空気の粘度を増している。右手に川、左手には民家が並び、民家はどれも濃い緑色に光る庭を持ち、遊歩道に面した窓にゴーヤやその他のグリーンカーテンを施していた。(「穴」小山田浩子著)(引用終わり)
 芥川賞受賞作です。暑いなんて一言も書いてないのに、真夏の昼下がりのじっとりとした暑さが伝わってきます。

歴史小説から
(引用はじめ)
 青い海空の上で、陽は焼けていた。
 そのまぶしい光の満ちた宙をわたってくる風は、しかし、秋のものであった。
 くろい浜辺へむかって傾いた険しい山の樹木のたてる音が、心なしか、つめたいのである。 山腹をうねる杣道が、白く、ひっそりと浮いていて、これは、静寂の世界の、明るいが、さびしい眺めであった。(「運命峠」柴田錬三郎著)(引用おわり)
 柴錬は描写が上手い作家です。夏の終わりの、暑いのに秋めく様子がうまく書いてあります。 

 このようにライトノベルも純文学も、文章で景色の情報を描いて写しています。
 次にこちらを見てください。

映像媒体は情景描写をしない。だって映像があるから。

 連休の初日はうだるような暑さとなり、各地の行楽地は涼を求める家族連れで賑わいました。

 これはニュース番組でアナウンサーが読み上げる内容です。情景描写がまったくありません。ですが、ニュース番組はこれでわかります。
 映像と音があるからです。
 木の枝の蝉を大写しして、蝉の声を効果音として流し、次にビーチで遊ぶ水着姿の若者、腕まくりしてバーベーキューをしているお父さん、噴水で水遊びする子供を写し、マイクを突き付けられて「暑いよね」と言っている女子高生を写すから、うだるような暑さが伝わるのです。

 読者さんは小説の中に書かれたことしか読み取ることができません。ここはどこで、どんな状況ですよ、というのを、文章で書く必要があります。

 だったら、海だ、夏だ、暑い。と書けばいいじゃないの? 描写書くのだるいし、読むのもめんどくさい、という意見もあると思います。

情景描写二行でキャラ立てができる!

 情景描写の効果って、景色の情報を描いて写すだけではないんですよ。情景描写二行でキャラ立てができるんです。
 やり方は簡単で、その情景の中にキャラを放り込んで、キャラの視点で景色の情報を書けばいいだけです。

 就活中の女子大生なら。

 パンプスの踵がアスファルトにくっつきそうな夏。私はリクルートスーツで丸の内のオフィス街を歩いていた。コロナの後遺症で就活に出遅れてしまったのが苦戦の原因だ。

 どうですか? 就活中の女子大生の外見や表情、彼女の焦っている気持ちまで伝わってくるでしょう?

 会社員なら。
 
 スーツの上着を脱ぎ、ワイシャツの袖をめくり、ネクタイを緩めてもなお汗が滴り落ちる。俺はハンカチで汗を拭った。

 病気の人なら。
 
 容赦なく降り注ぐ陽光にくらくらする。日陰がくっきりと黒く、鮮やかに染め分けられていて、目が痛くなるほどだ。車椅子から立ち上がろうとした私は、諦めて座り直した。

 いかがでしょうか? 情景の中にキャラを放り込むことで、キャラの外見や考え方が、くっきりとしてきませんか?
 
 以下はドリルです。余裕のある方は取り組んでください。回答例は有料100円で公開しています。

問題1 年金生活者のおばあさん(66歳)がATMでお金を下ろしてきた帰り、二ヶ月に一度(年金は二ヶ月分一度に支払われる)の贅沢であるカフェのランチを楽しんでいる様子を書いてください。私は、で書いてください。

問題2 宅配便のお兄さんが、荷物を渡そうとしたとき、冷房のひんやりした空気に一瞬だけ汗が引いたが、ドアを閉めるとまた熱気に包まれて、帽子を目深にかぶり直す様子を、僕は、で書いてください。

問題3 読書家のまじめな女子高生が、炎天下で本を読みながらバスの到着を待っている様子を私はで書いてください。

問題4 元気いっぱいの小学生が、明日から夏休みだとウキウキしながら、帰路を辿っている様子を、私は、で書いてください。

ここから先は

666字

¥ 100

基本無料のつもりですが、サポートを頂くとモチベーションが上がります。参考になったな、おもしろかったな、というとき、100円のサポートを頂けたらうれしいです。