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フランス書院文庫大賞に応募する皆さんに。

 今年も受講者のみなさんから、フランス書院文庫大賞の選考通過報告を頂く時期になりました。

 私はフランス書院でデビューした現役作家で、小説教室の先生や添削指導などもしています。そのため、フランス書院文庫大賞に応募したい皆さんの作品を拝読することが多いです。

 ですが、官能小説になっている方は10人にひとり。そのひとりは予選を突破し、予選突破者三人に一人は受賞されます。ここ数年にデビューされた方の多くは、私がご指導した方です。

私がご指導してデビューされた方の小説のリンクです(アマゾンアソシエトに参加しています)

 では、残りの9人は、何が悪いのでしょうか? その9人の中には、文章力がある人もいらっしゃるし、エロい小説を書くこともできる方もいらっしゃいます。
 私は、官能小説に対する認識がずれているのではないかと思っています。


1.サービスシーンになるとキャラが豹変する。

 プロットはとてもおもしろそう。主人公は誠実で爽やかな青年。ヒロインたちもそれぞれ個性的で魅力的。なのに小説ができあがって見せて頂くと、サービスシーンでいきなりキャラが豹変する。

 爽やかで誠実な青年がベッドヤクザの暴力系中年男になってエラソウにふるまい、清楚な若奥様が下品な肉食ビッチ女に変身して、あんあんはあはあ、くんずほぐれつする。

 官能小説は小説です。誠実な青年は、サービスシーンでも誠実に行動してほしいのです。かわいらしい人妻はガバッと服を脱いでいきなりじゅぼっとしゃぶるのではなく、恥じらいなら服を脱いで、かわいらしく誘惑してほしいです。

 サービスシーンでキャラを豹変させないで欲しいのです。キャラだてに従った行動をさせてほしいのです。サービスシーンさえあれば官能小説になるのではありません。日常シーンとサービスシーンは地続きです。
 もう一度言います。官能小説は小説です。

2.もろだしすればエッチなんだと思ってる。

 もろだしされても、グロテスクなだけです。もろだしにセクシーさを感じることはできないと思うんです。セクシーさを感じるときって、浴衣の女の人のうなじだったり、強気な女の人が雷で怖がって抱きついてきてぶるぶる震えているときだったり、波打ち際ではしゃいでいる彼女の裸足だったり、さらさらの黒髪が風に揺れてふと漂ってきたシャンプーの匂いだったりするんじゃないですか? 

 ふっくら年上美人の膝枕って、ぐっときませんか? 喪服の人妻の、涙をこらえている様子や、白いハンカチで目頭を押さえる様子はセクシーではありませんか?

 官能小説は小説です。サービスシーンに突入した瞬間にキャラが変わって、クール美人がおまたゆるゆる栗の花の匂いのする公衆便所になるのではなく、クール美人のクールなセクシーさをしっかり書いてほしいです。
 もう一度言います。官能小説は小説です。

3.「肉食だから」ですませないで。

 ヒロインが誘惑してサービスシーンになるお話は、誘惑ものと言われています。清楚な女子高生が、かわいらしい人妻が、クールな女性上司が誘惑してくれる。男の夢ですよね。

 誘惑するには、なんらかのきっかけがあります。たとえば、痴漢で困ってる清楚な女子高生を、主人公がそっと背中で庇って守ってあげたとか、自転車をひっくり返して転がっていくオレンジを追いかけていたかわいらしい人妻を助けてあげたとか、バーでひとりで飲んだくれている女性上司に「課長、飲み過ぎです。それ以上はやめましょうよ」と声を掛けて、女性上司が注文するカクテルを「それ、オレが頂きますよ」と次々に飲み干して、自分が先につぶれてしまい、逆に女性上司に介抱されるとか、いろいろ考えられると思います。

 ですが、官能小説を小説だと思ってない人は、ヒロインを肉食にして、いきなりおまたをぱかーっと開かせてもろだしします。

 積極的な女の人は魅力ですよね。わかります。ですが、官能小説は小説です。小説は人間を書くことです。ヒロインはダッチワイフではダメなんです。生きた人間としてキャラ立てをして、そのキャラらしい行動をさせてほしいのです。

 肉食女って理由もなくいたすので、頭が悪く見えるんですよね。おまたのゆるい使い古された×××を持つ尻軽女より、「こんなことをするのはあなただけよ」のほうがぐっと来ませんか?
 もう一度言います。官能小説は小説です。

4.肉食ヒロインが困るわけ。

 わかつきはおかしい。肉食ヒロインって魅力だよ、という人もいるでしょう。肉食にすると、どうやってサービスシーンに突入させるか、作家が一番頭を使うところを省略できます。面倒なこと抜きでサービスシーンが書けるので、書くほうとしてはらくちんですよね。

 ですが、三人のヒロインが肉食なら、やんちゃな女子高生も、包容力のある人妻も、きりりとした女性弁護士も、みんな同じキャラに見えてしまう。同じサービスシーンが繰り返されているだけに見えて読者が飽きてしまうのです。長編小説をもたせることができないのです。肉食を出すなら、ストーリーとキャラ立てをサボるために出すのではなく、肉食なりの理由や魅力を書いてください。
 もう一度言います。官能小説は小説です。

5.ヒロインがサービスするシーンに説得力を持たせてください。

 サービスシーンさえあれば官能小説になるのではありません。ヒロインがエッチなことをすれば官能小説になるのではありません。官能小説ねー、あーはいはい、もろだしして、くんずほぐれつすればいいんでしょ? ではありません。
 繰り返します。官能小説は小説です。ヒロインがそういうことをする理由に説得力をもたせてください。いきなりもろだしくぱぁではなく、ヒロインの魅力を書いてください。ヒロインのかわいいところをエピソードで書いてください。セクシーさを描写してください。サービスシーンで豹変させないでください。サービスシーンとストーリーを分離させないでください。

 サービスシーン豹変タイプの書き手さんは、認識を改めて頂ければ、すぐにもデビューできますよ。

6.ドリルに挑戦しよう!

 以下はドリルです。誘惑系の官能小説を書く作家が最も頭を使う、どうしてヒロインの側から誘惑するに至ったかのシチュエーションを考えて頂きます。興味のある人は挑戦してください。

問題文1
 彼女は気が強くてGALっぽい感じの女の子。コンビニバイトをしています。彼は店長です。どうすれば自然にサービスシーンに突入できますか? シチュエーションと会話を書いてください。

問題文2
 彼女は40歳の母性愛の強い義母。彼は義理の息子で20歳です。どうすれば自然にサービスシーンに突入できますか? シチュエーションと会話を書いてください。

問題文3
 彼女は35歳の女性上司、スーツの似合うクールな女性です。彼は部下。23歳の新卒です。どうすれば自然にサービスシーンに突入できますか? シチュエーションと会話を書いてください。

問題4
 彼女は35歳の人妻。浮世離れした感じのおっとり美人で、ちょっと世間知らず。ドジなところがあってかわいいです。彼は28歳の自営業です。どうすれば自然にサービスシーンに突入できますか? シチュエーションと会話を書いてください。

問題5
 彼女は25歳の保母さん。エプロンの似合う優しそうな女の人です。子供の相手をして一生懸命働いています。彼は50歳の配送トラックの運転手さん。
どうすれば自然にサービスシーンに突入できますか? シチュエーションと
会話を書いてください。

解答例1
 GALの彼女がクレーマおばさんの相手をしている。
「すみませんでした。返金します」
 彼女はレジを操作しているが、ムスッとして、上目遣いに睨んでいる。
「不満そうね。そんなだらしない格好して。あんたを正しく導いてやるために、私が怒鳴ってやったのよ」
 クレーマおばさんえらそう。
「うちの店員を威嚇するのはやめて頂きます」
 店長が断固とした口調で言う。
「こちら、うちの商品でないようですが? シールを剥がした痕跡がありますね。警察を呼びます。お帰りください」
「なんですってぇっ!?」
 怒鳴るクレーマーおばさんを店長が追い出す。
 レジを別のバイトに頼んで、彼女をバックヤードで休ませる。
「すまなかった」
「なんで店長が謝るんですか?」
「僕は店員を守る義務がある」
「店長……」
 彼女が抱きついてくる。(解答例2から5までは有料100円です。)

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